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珍しく安村が慌てる。ほんのり顔を赤くして、そっぽを向くと早口で伝える。
「し、少々弱音は吐いた……かと。君から好きと言われてもないし、付き合おうと言っても色よい返事は貰えないし、な」
ポリポリと頬をかく様子の安村を見て美咲の口から声が漏れる。
「可愛い」
「おいおい。三十路すぎの男に「可愛い」はないだろう」
眉をへの字にして困り果てる安村に美咲は声を上げて笑う。
安村は楽しそうに笑う美咲に頬を緩めると、いつものニカッとした笑みを浮かべた。
「さて、約束のデートをしようか」
差し出された安村の右手。
昨日は繋ぐことが出来なかったその手に、そっと自分の手のひらを重ねた。
嬉しそうに笑う安村に指を絡ませてながら握られる。
大きくて温かくてそして優しく包まれる自分の手。
長い時間をかけてやっと繋ぐことが出来た幸せを噛み締めながら、美咲は彼の隣を歩く。
「好きです、安村さん」
小声で呟いたつもりなのに、彼の耳には届いたようだ。
そっと顔を耳に寄せると安村は囁いた。
「僕もだよ、美咲君」
と。
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