二人の朝

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怖い人じゃありませんように、と祈りながら美咲は恐る恐る「はい」と声を出した。 『お前、安村を弄んだんだって?』 「えっ、あっ?お、お兄ちゃん!?」 身構えていた美咲の体から力が抜ける。 兄と分かってホッとしているのも束の間、新たな疑問が湧いてくる。 兄は、どこまで知っているのだろうか、と。 『全部知ってるよ。俺のほうが付き合いは長い。誠実の塊のような男だしな。お前と違ってちゃんと事前に頭下げに来てるさ』 少しだけ嫌そうな兄の口調は何故なのかは、直後に付け加えられたセリフで判明する。 『お前との宙ぶらりんな関係の報告がてら早々に()()()()()って呼ばれるしさ。ってかお前、ずっと安村のこと好きだったんだからサッサと付き合ったら良かったんだよ。ウダウダと拗らせて、面倒くさいぞ、お前』 電話で起こされたのがよっぽど気に食わなかったのか、流れるように文句が出てくる。 美咲は兄の言葉に安村を見つめて固まることしか出来なかった。 『あいつは美咲には勿体ないくらいいいヤツなんだ。……泣かすなよ』 低い声で念押しする前野の言葉は真剣味がある。思わず背筋を伸ばした美咲を他所に唐突にブツッと電話は切れた。 切れた携帯を見つめる美咲に安村はどうだった、と訊ねる。 「安村さん」 「ん?」 「兄の前で、泣いたんですか?」 「あ、いやっ!泣いてはない。無いぞ!」
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