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ぐつぐつと料理の煮立つ音。――静寂。
こんな静寂をあたしは知らなかった。いつも、……世俗と雑念という毒にまみれていて。
「飲む? 日本酒」
差し出されるので杯を差し出した。「ちょっとなら……」
「ここは米が旨いから。米が旨い場所は酒も美味いんだ」
そっと、一口。
ほんのり、喉の奥が熱くなる。きゅ、と与えられた旨味を喉の奥に閉じ込め、噛み締める。
思わず笑顔がこぼれだす。「美味しい……」
「さ。食べようぜ。いっぱい食おう」
「でも。……いいの?」
気になって問うてみれば、おれはこの日のために生きてきたの、と彼は言い切る。
「おまえの幸せな顔が見たいがためにいままで頑張ってきたの。
おれに、ご褒美を頂戴?」
上目遣いで言われるけどそれ。「ご褒美貰ってるのはあたしのほうなのに」
「いや? おれ、おまえと一緒にいられるだけですっげー幸せ。なんかもう、胸いっぱい……」
「じゃ、きりがみねのぶんのステーキは、あたしが食べてあげようか?」
「ちょっとそれは話が別」
「あはは」
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