#03. 灰かぶりシンデレラは夢を見る。

6/9
899人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
 ぐつぐつと料理の煮立つ音。――静寂。  こんな静寂をあたしは知らなかった。いつも、……世俗と雑念という毒にまみれていて。 「飲む? 日本酒」  差し出されるので杯を差し出した。「ちょっとなら……」 「ここは米が旨いから。米が旨い場所は酒も美味いんだ」  そっと、一口。  ほんのり、喉の奥が熱くなる。きゅ、と与えられた旨味を喉の奥に閉じ込め、噛み締める。  思わず笑顔がこぼれだす。「美味しい……」 「さ。食べようぜ。いっぱい食おう」 「でも。……いいの?」  気になって問うてみれば、おれはこの日のために生きてきたの、と彼は言い切る。 「おまえの幸せな顔が見たいがためにいままで頑張ってきたの。  おれに、ご褒美を頂戴?」  上目遣いで言われるけどそれ。「ご褒美貰ってるのはあたしのほうなのに」 「いや? おれ、おまえと一緒にいられるだけですっげー幸せ。なんかもう、胸いっぱい……」 「じゃ、きりがみねのぶんのステーキは、あたしが食べてあげようか?」 「ちょっとそれは話が別」 「あはは」
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!