2話 白亜:ママは天国へ行ってしまった

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2話 白亜:ママは天国へ行ってしまった

10歳の時に、ママは天国へ行ってしまった。 二人で暮らしていたアパートから離れて、白亜は伯父夫婦の下に引き取られた。 伯父夫婦は下町で食堂を営んでおり、一人娘の巳影(みかげ)は白亜より一つ年上だ。 甘やかされて育ったせいか、とつぜん現れた従兄弟の白亜を前にして、仁王立ちで怒り狂った。 「なんで、こんな奴と一緒に住まなきゃいけないのよ!」 「まあまあ、落ちついて、巳影」 怒る巳影に、伯父がなだめる。 だけど巳影は、伯父の後ろに隠れた白亜をギロッとにらんだ。 「アルファならまだしも、こんな頭の悪い子なんて!」 「巳影、やめないか。それに白亜はまだ検査を受けてないんだから……」 「どう見たってアルファじゃないでしょ! ベータに決まってる! ううん、もしかしたら、オメガなんじゃないの?」 汚物でも見るような目つきに、白亜は恐ろしくて、体が震えた。 「そうよ、あなた。巳影の言う通りだわ」 仁王立ちした巳影の肩を抱いて、伯母が白亜を見下ろしてきた。 「あなたの妹、オメガだったでしょ? 考えなしにアルファと番になって、子供ができた途端に、捨てられたじゃない」 「しかも生まれたのが、こんなバカな子よ!?」 巳影に指で差されて、また肩を縮める。 自分のことを言われていると分かっても、怒られる理由までは分からない。 伯母は白亜の方を白い目で見ながら、吐き捨てた。 「もしオメガだったらどうするの? 犬猫みたいに、知らないうちに妊娠でもしたら、後始末するのは私達なのよ?」 「そうよ! この子、パパの妹にそっくりじゃない! きっとオメガだわ!」 巳影が伯母の言葉に乗っかって、白亜をギッとにらんだ。 伯父はおろおろしながらも、必死に妻と娘を説得する。 「白亜がオメガだと、決まったわけじゃないだろう。それに、白亜のことは妹から頼まれてるんだ」 「妹って言うけど、親が離婚して、ずっと別々に暮らしてたんでしょ? そんなの他人と同じじゃない」 伯母の台詞に、伯父がたじろぐ。 「いや、たしかにあの子と一緒に育ったわけじゃないが、たった一人の妹なんだよ」 「だからって、タダで面倒みる必要はないでしょ!」 「よ、養育費は、もらってるんだ」 「あら、いくら?」 「……」 声色を変えた伯母に、伯父が手のひらで返す。 「ふんっ……まあ、しばらくは面倒見てやってもいいわ」 急に、伯母が態度を和らげた。 それに慌てたのは巳影だ。 「ママ! 私はイヤよ、こんな奴と一緒なんて!」 「巳影。この前欲しがってたワンピース、買ってあげるわ」 「っ……」 伯母の言葉に、巳影はしぶしぶといった顔でうなずく。 白亜は、その様子を伯父の背中でうかがっていたが、巳影ににらまれて、サッと隠れた。
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