27話 白亜:はなれたくない

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27話 白亜:はなれたくない

そういえばママも、いつも甘い香りがしていた。 他の人には分からないみたいで、白亜だけが嗅ぎ取れる香りだった。 「きっと白亜は、ママと同じなのね」 ママはそう言って、ちょっとだけ悲しそうな顔をしたけど、大切なことを教えてくれた。 ――いつか、ママよりも大好きな人が現れるわ。 ママより好きな人なんて、いない。 白亜はそう言い返したけど、ママは笑って首を振った。 「その人は、きっとママより、甘くていい香りがするわよ?」 茶目っ気のある笑顔で、ママはそう言った。 そのときの白亜は、よく分からなかったけど。 でも、今ならハッキリ分かる。 嶺二は、ママよりもずっと甘くて、とろけそうな香りがする。 あのとき。 助けてくれた嶺二の瞳を、のぞき込んだ瞬間。 体の奥が、カァッと熱くなった。 腰がうずいて、どうしても、嶺二が欲しくなって。 ほしいってねだると、いっぱい気持ちよくしてくれた。 嶺二の熱を中に感じると、胸がいっぱいになって、涙がでるくらい嬉しかった。 だから白亜は、嶺二のことが大好きだ。 ……はなれたく、ない。 嶺二と、ずっと一緒にいられたらいいのに。 じっと嶺二を見つめると、微笑んでくれた。 それだけで、嬉しくて心が弾む。 「白亜、起きれるか?」 「はいっ」 起き上がろうとしたけど、体のあちこちが痛む。 「白亜、ゆっくりでいい」 嶺二が手伝って、白亜の体を起こしてくれた。 なんとか上体を起こすと、嶺二が下着とシャツとルームパンツを差し出してくる。 「着替えだ」 「よーふく?」 「裸じゃ寒いだろ?」 よく見ると、下着は袋に入った新品だった。 「新しいの……」 新品のモノをもらうなんて、滅多にない。 着る物はぜんぶお古だ。 下着は、たまに新しいのをくれるけど、そうすると伯母の機嫌が悪くなる。 もし嶺二が嫌な顔をしたら、どうしよう。 緊張しながら、嶺二にたずねる。 「新しいの、もらっても、いいですか?」 嶺二は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んで、頭をなでてくれた。 「もちろんだ。それは、お前の物だ」 「っ! ありがとう、レージくん!」 白亜は、受け取った服をぎゅっと胸に抱いた。 新しい下着をもらえるなんて、久しぶりだ。 「一人で着替えられるか?」 「はい」 白亜はうなずくと、さっそくシャツを広げて、腕を通す。
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