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「俺さ、自分よりも食べる女子って無理なんだよね。いくら顔が良くても引くわ」
じりじりと熱くて、買ったばかりのアイスも秒で溶けてしまうような夏。私の恋も、秒で終わりを告げた。
職場の同期で一目惚れだった。堀が深く、一つ一つのパーツがくっきりとしているソース顔。少し茶色い肌に引き締まった体は、まさに私の理想のタイプだった。
私は毎日アプローチし、やっとデートまでこぎ着けたのに。
ショッピングを楽しんでいた時の彼の笑顔は、ランチを終えるころには冷めきっていた。
「俺もう行くね。あ、釣りは明日職場で返して」
テーブルに5千円札を置き、彼は席を立った。
きっと、パフェに乗ってるミントってこういう気持ちなんだ。自分を見つけたとたん、冷めた顔で端に寄せられる気持ち。
とぼとぼと家に帰り、身に着けていた淡井オレンジのワンピースを脱ぐ。時計の針は、15時を指していた。
こんなはずじゃなかったのに。
私が小食だったら、彼はまだ隣にいてくれた?
そう思ったとたん、目から涙が溢れてきた。
ご飯ではしゃぐなんて馬鹿みたい。もう何も食べたくない。
数日後の夜。私の好きなアイドルが配信をしていた。
『はい! 今日はミナトと質問コーナー! 最初の質問はこちら!
ミナト君の好きな女性のタイプは?』
ありきたりな質問に彼は丁寧に答える。
『俺はたくさん食べる女の子が好きです! おいしそうに食べる女子ってめちゃくちゃ可愛いくないですか? なんなら俺の分もあげよっかって思っちゃう』
私の推し、たくさん食べる子見ても引かないの? むしろ可愛いって思ってくれるの? 驚きと嬉しさで、頭の中はスクランブルエッグみたいにかき回される。
配信中のキラキラとしたミナトを見て、ふと思う。
「あぁ、お腹が空いた」
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