<プロローグ> 見知らぬ人と見知らぬ部屋

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

<プロローグ> 見知らぬ人と見知らぬ部屋

「リーリー。リーンリーン」 遠くから聞こえてきたのは優しい鈴の音だった。 それは昔、 アニメで見た田舎の光景を思い出させた。 縁側に吊るされた風鈴が頭に浮かんだ。 「リーリー。リーンリーン」 心地良い響きがボクの体を包み込んだ。 しかし その音がどこから聞こえてくるのか ボクにはわからなかった。 ボクは真っ白な世界にいた。 「リーリー。リーンリーン」 その音色に導かれてボクは目を開けた。 目の前に少女の顔があった。 ボクは驚きのあまり飛び起きた。 「き、君は・・?」 「・・大丈夫ですか?」 少女は心配そうにボクの方を見ていた。 艶のある長い黒髪。 ふわりとした前髪が アーチ型の眉にかかっていた。 綺麗な二重瞼の大きな目。 細く小さな鼻。 瑞々しくしっとりとした桃色の薄い唇。 年の頃は10代。 ボクと同じか少し上か。 どちらにせよ、 ものすごく美人であることに変わりはない。 どことなく落ち着いた雰囲気なのは 服装のせいだろうか。 彼女は今の時代には珍しく 和服を着ていた。 小袖というのだろうか。 「き、君は・・」 ボクはもう一度、同じ言葉を繰り返した。 その時、 襖が開いて見知らぬ男が部屋に入ってきた。 癖のある長い髪と無精髭に覆われて 顔の大部分は隠れていたが 右目の下から頬にかけて痣があるのが見えた。 男はゆったりとしたジーンズに 黒の薄手のパーカーという格好だった。 「父がここへ運び込んだのです」 少女が説明しが、 それはただボクを混乱させただけだった。 ボクは慌てて部屋の中を見回した。 そこで初めて気が付いた。 この古めかしい和室が ボクの部屋ではないことに。 僕は畳に敷かれた布団の上にいた。 昨夜、 ボクはスマホを手に 自宅のベッドで横になって とある小説投稿サイトで連載中の 小説を読んでいた。 それは 『夜霧家の一族』 という推理小説だった。 作者はMr.Mとなっていたが、 ボクはその人物が親友の 未来(みくる) であることを知っていた。 ボクは 一番新しいページまで読み進めてから 眠りについたのだ。 そして今。 目が覚めたらこの状況だった。 「申し遅れました。  私は夜霧家の使用人、  五代(いよ)と申します。  こちらは父の竹千代(たけちよ)です」 少女はそう言うと、 ぺこりと頭を下げた。 ボクの頭はますます混乱した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!