<プロローグ> 見知らぬ人と見知らぬ部屋

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たった今、 少女が口にした名前にボクは心当たりがあった。 それはまさに昨夜ボクが読んでいた 『夜霧家の一族』 の登場人物の名前と一致していた。 「・・先生?  どうしました?  大丈夫ですか?」 五代が真っ直ぐにボクを見つめていた。 物寂しげなその瞳に吸い込まれそうになって ボクは慌てて頭を振った。 その時、ふたたび襖が開いて 和服を着た年配の女が入ってきた。 女は時代劇で馴染みのある島田髷に 髪を結っていた。 化粧は薄かったが、 それとは対照的に 不自然なほど朱い紅が目を引いた。 大きな額に薄く長い眉。 一重の目は細く、 鼻の左に黒子があった。 女にしては大きな体で、 横に並んだ竹千代とそれほど変わらなかった。 「お目が覚めましたか?  お姫様が  お呼びになられた  お名探偵の風来山人(ふうらい さんじん)  お先生で御座いますね。  お待ち申し上げて  おりました」 女はやや低い声でそう言った。 ・・この場面。 ボクは知っている。 そして今まさに、 彼女が口にした名前にも心当たりがあった。 ボクは自分の考えを確かめるために 恐る恐る口を開いた。 「さ、斎藤福(さいとう ふく)さんですか?」 ボクの言葉に年配の女は目を見開いた。 一瞬、静寂が部屋を包み込んだ。 「先生、  どうして母の名前がわかったんですか?」 五代が口に手を当てて驚いていた。
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