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儀式
まだ手垢の付いていない僕の真っ白な肌を剥き出しにすると、彼女は食い入るような眼差しを向けた。しばらく隅々まで舐め回すように眺めていたが、やおら唇を一文字に結ぶと赤い油性ペンを握り、僕の腹の上に一筆書きで傘を描いた。大胆な筆致には迷いがない。肌を押す絶妙な筆圧に擽ったさを堪えながら、僕はされるがまま――机の上に横たわっている。
「ちょっと曲がった……ううん、大丈夫」
傘の出来をじっくりと吟味して、彼女は呟く。そして、再び深紅のペンを握り直し、傘の柄の左側に彼女自身の名前を記す。“相良芽衣”、と。
それから間髪入れずに、柄の右側に別の名前を書き出した。筆圧が少し強い。ペン先が緊張を伝えてきた。
「これで……どうか、和田一輝クンと両想いになれますように!」
僕の持ち主、芽衣ちゃんは両手をパンと合わせると、ギュッと目を瞑って祈りを込めた。
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