ひみつきち

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 これは私の友人、太郎君のお話です。太郎君は、外資系の企業に勤めているというお父さんと二人で東京に住んでいたそうですが、ある夏の間、太郎くんは秋田の田舎で過ごすことになりました。というのも,お父さんが急な出張でしばらく帰れなくなってしまったので、夏休みの間は祖父母の家で面倒を見てもらうことになったのです。祖父母の家には何度か来たことがあったようで、祖父母は太郎くんをとても可愛がり、太郎くんも寂しさを覚える暇がないほど夏を楽しんだそうです。そのうち、太郎くんは近所の子供たちと仲良くなって一緒に遊ぶようになりました。最初は仲間の一人と間違えて話しかけられたのがきっかけで、そこからだんだん仲良くなって夏の間だけみんなの仲間に加わったんです。釣りがとても上手なミキくん、食いしん坊だけどすごく優しいケントくん、もの静かでいつも本を持っているマサくん、いたずら好きだけどすごく頼りになるレオくん。みんな近くの小学校に通っている小学生で、いつも同じ仲間で集まっては遊んだりいたずらをしたりしていました。あの日も、みんなでいつものように山に集まって、山に不法投棄されたごみを集めて秘密基地を作っていたんです。秘密基地がおおかた完成してきたとき、ミキくんがトラップを作ることを提案しました。みんなこれに賛成して、それぞれが秘密基地にトラップを仕掛けることになりました。ミキくんは輪っかにしたワイヤーで縛り上げるトラップ、ケントくんはホウ酸団子を入れたおにぎり、マサくんは秘密基地に入るとフェンスが落ちてきて閉じ込めるトラップ、レオくんは秘密基地の前に落とし穴を掘りました。太郎君は迷った末、トラップが思いつかなくてレオくんの落とし穴作りを手伝いました。そうしているうちに日が暮れ、その日はみんな家に帰ることにしました。しかし次の日、太郎くんが秘密基地に向かうと、もう他のみんなは揃っていて呆然としていました。みんなの視線の先を見ると、秘密基地は無残に崩れ、見る影もありませんでした。太郎君が、また作り直せばいい、そうみんなを励まそうとすると、真っ青な顔をしたレオくんが首を横に振り指をさします。その指の先には、血にまみれどす黒く汚れてはいましたが確かに大人の女性の死体があったのです。混乱する気持ちを抑え、みんなで話し合いをしました。ミキくんのワイヤートラップは作動していた。いや、ケントくんのおにぎりも見当たらない。でも確かに遺体は落とし穴にはまっている。マサくんのフェンスも落ちている。だれのトラップが死因になったんだ。誰が犯人なのだ。その場の誰一人として口にはしなかったものの、全員がその疑念を持って凍り付くように静まり返った空気。その時、「でも、血が」そう言ったマサくんの言葉が途切れました。数舜の後、不思議に思った他の仲間が振り返ると、そこには首から血を流したマサくんが横たわっているのです。誰があげたのか、まさに金切り声と呼べるような悲鳴を皮切りにみんなはその場から散り散りに逃げていきました。そのまま祖父母の家に走って帰った太郎くんは、布団にこもったまま夜まで震え続け、夜になって夕飯に呼ばれた太郎くんは祖母からこの近くで4人の遺体が見つかったと聞かされました。みんなの内の誰かが、口封じのために他の仲間を殺してまわっている。内心そう理解していたのでしょう、太郎くんは用意された夕飯も食べずに荷造りをし、帰り支度を始めました。こうなってしまえば背に腹は代えられない。残念だなんて言っていられない。結局、夏休みもまだ中盤でしたがその日のうちに電車に乗って、そのまま一人東京へ行くこととなりました。その日以来、まともに人と話をすることもできなくなってしまいましたが、誰かが追って来ることはついぞありませんでした。しばらくして新聞で読んだことですが、あの後女性の遺体も見つかったそうです。
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