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「あったわ! ここが、もうひとつの宝物庫ね?」
目的の部屋に入ったシンディは、小さく歓声を上げていた。
同時に、ハッと自分の口を手で押さえる。心の中だけで留めるのでなく、独り言として声に出してしまうのは悪い癖。それは彼女自身、承知していたからだ。
無用な声や物音は、本来ならば一切厳禁。なにしろ彼女は、最近王都を騒がせている盗賊――通称『黒い蝶々』――であり、今現在も王宮に忍び込んでいる真っ最中なのだから。
雲ひとつない澄んだ空に、丸く満ちた二つの月が浮かび、人々の寝静まった王都を照らし出している。
そんな夜の出来事だった。
暴利を貪る商人や私腹を肥やす大臣たちを標的として、盗んだ金銭も市井の人々に分け与えることが多いため、庶民からは義賊とみなされている『黒い蝶々』だが……。
純粋にシンディ自身のコレクションに加えるため、宝石や美術品などの宝を盗んで行く場合もある。今夜の盗みも、そちらの類いだった。
王宮の奥深くに、王族が代々守ってきた貴重な装飾品が隠されているという。そんな噂は同業の盗賊たちの間でも前々から流れていたし、それは根も葉もない噂話に過ぎないとして一笑に付す者も多い中……。
信頼できる情報屋から入手した断片的な話を、色々と繋ぎ合わせた結果。
噂となっているお宝は確かに存在すること、それが保管されているのは通常の宝物庫ではなく、王族が寝泊まりする建物の一画にあること。
それらを確信したシンディは、今宵ついに犯行に及んでいるのだった。
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