第二部 繰り返す悪夢

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 ギロチンの刃が落ちるまでに、駆けつけて救い出す。その一心で、星冬は階段を三段跳びで駆け下りた。  廊下を走りながら、敵とどう戦うかシミュレーションした。  敵は、残酷無慈悲な殺人犯。返り討ちに遭う可能性が高い。戦いになるだろう。 「まずは威嚇だ」  喧嘩の手法は実戦で鍛えている。  相手をひるませて、先制攻撃で不意を突く。 「武器も必要だな」  目印のバリケードフェンスを乗り越えたところで、さっき草平に渡した鉄パイプが落ちていた。 「これは使える。多少のダメージなら与えられるだろう」  それを拾い、ギロチン部屋の前まで来た。 「いよいよだ」  さすがに緊張する。  パニックになれば、頭が真っ白になって何も出来なくなってしまう。 「俺、冷静になれ……」  生唾をゴクンと飲み込んで息を整え、バクバクする心臓を落ち着かせる。 「よし、行ける! 3、2、1! ウオオオオオ!」  鉄パイプを両手で固く握りしめて振りかざし、ギロチン部屋に雄たけびと共に突入した。 「そこまでだ! って、あれ?」  中には誰もいなかった。  ギロチンに草平は寝ていなかったし、殺人犯の姿形もない。 「読みが外れたのか?」  まさかと思いながら、ギロチンを確認しようとゆっくり近づく。 「ヤベー、ここじゃないのか。それじゃあ、次にどこを捜せばいいんだ……」  悩んでいると、体に強い電流を受けて星冬は失神した。 「……ウ」  目が覚めると、何かの硬い台にうつぶせで寝ていた。頭に枷をはめられていて、自由に動かせない。  目を動かして周囲を見た。 「エ! これって? ウソだろ!」  ギロチン台の上で、首を木枠で固定されている。いくらもがいても外せない。  必死に首を曲げて上を見ると、大きな刃があった。  長い紐がピンと張り、それを引っ張っている。先端は出入口の先に延びていて見えない。それが緩んだら落ちてくる。 「何とか、あれが落ちる前にここを抜け出さないと」  両手で木枠の両端を掴んで、揺すったり叩いたりしたが、頑丈でビクともしない。 「クソ! クソ! こんなこと、前はなかった!」  いつ落ちてくるかと思うと、生きた心地がしない。 「こんなに早く死ぬはずはない。死ぬのは最後の方じゃないのか?」  自分が気づいたことによって、運命の流れが変わったのかもしれないが、こんな形になるとは思っていなかった。窓に近づかなければ助かると楽観視していた。 「これぐらい、気合でぶっ壊す!」  血だらけになっても、拳で打ち続けた。 「ハァハァ。クソオ! ビクともしない!」  涼真や季里乃、草平、羽沙はまだ生きている。もしここで自分が死んだら、次のループはあるのだろうか。  オカルト部員全員が死なないとループが発生しないのなら、誰か一人が生き残っただけで自分は終わりだ。もしループが発生すれば、全員亡くなったということだ。 「でも、なんで俺だけ、記憶が残ったままループしたんだろう」  それも不思議なことだ。  そして、もう一つの謎。やはり、殺人犯の正体についてだ。  星冬をこんな目に遭わせたのだから、勝ち誇った顔で出てきそうなものなのに、まだ隠れている。  せめて、そいつの顔だけでも分かれば、次のループに備えられる。そのためにも、こんな序盤で死ねない。  諦めずにガンガン板を叩き続けていると、遠くから「星冬!」「星冬―!」と、涼真と季里乃の星冬を捜す声が聴こえてきた。ここで暴れている音が彼らの耳に届いたのだろう。  まるで神の声のように思えた。 「星冬! 季里乃! ここだ! ……ハ!」  ピンと張ったギロチンの紐が目に留まった。それは、出入口の先に延びている。 「あの先って、まさか……」  嫌な予感に教われる。  誰かがここに来たことで、仕掛けが動いて刃が落下するのではないか。 「待て! こっちに来るな! 来るなー! 罠だ!」  星冬の声は届かず、涼真と季里乃がひょっこり現れた。 「星冬! いた! こんなところで何して……」 「この紐、何?」  二人が入ってくるとともに、紐がヒュンと跳ね上がるように緩み、繋がっていたギロチンの刃が勢いよく落下した。 「ウワアアアア!」  眼前に迫るギロチンの刃。星冬の顔が恐怖で引きつる。  ――ザク!  涼真と季里乃の目の前で、友人の首が落ちた。 「ウワー! 星冬―!」「イャアアアー! アー! アーー!」  二人の悲痛な叫びがこだました。  ・第三部へ続く
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