再会

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 久しぶりに会った祖母は、既に棺桶に入れられていて、その何も言わない顔を見た時は、悲しさよりも申し訳なさの方が先に立っていた。死んだら、もう2度と話せないのにね。分かっていたのに。ごめんね、ばあちゃん。  私は30歳目前に離婚が成立し、バツイチになって以来、祖母の家ばかりではなく実家にも顔を出していない。だから出戻ってはいない、なんてどうでもいいことを考えながら、結婚式以来に会うことになった親戚連中とあいさつをかわす。祖母の葬儀は内々の家族葬だと聞いていたのに、そこそこの参列者がいた。知らない人には会釈だけですむけど、どうしたところで親戚と話せねばならず、気が重いったらない。 「茅早ちゃんは最近はどうしてるの?」 「離婚しまして、働きながら一人暮らししてます」  そんな会話を何度リピートした?「どうして離婚したの?」そんな突っ込みには、適当にごまかしながらフェードアウトを試みる。祖母の死を嘆くよりも、こちらの対応が今の私にとっては、はるかにしんどかった。  ふすまを外して二間をぶち抜いた客間に祭壇が飾られていた。親戚の相手をしているうちに、お坊さんが入ってくる。両親と兄、華凜の方に目を向けると、前の席の方に来るように促された。兄の隣の席について、読経を聞きながら、祖母の遺影をマジマジと見る。穏やかなばあちゃんの顔。懐かしい表情。葬儀の喪主は竜ケ崎の叔母さんがつとめていた。だから本当だったら颯君は喪主席にいるはずなのだけど、私たち家族、酒々井の家の末席にいる。つまりは妹の華凜の隣の席だ。颯君の席が隣じゃなくてよかった。今のこの状態でも、十分、居心地が悪すぎるから、私はひたすら祭壇をながめることにした。  祭壇に飾られている生花には私の実家の酒々井家とか叔母の竜ケ崎家、私の元夫の柴咲という名前も散見された。孫一同というのもある。この孫一同って、私たち兄妹と颯君の元配偶者の従妹の汐音(しおん)、それに颯君も含まれるんだろうか?それより花代って誰に払えばいいの?後で兄にでも聞いておかなくては。坊さんの読経を聞きながら、見たままの情報だけを考えることにしていた。ここでは私は泣いてはいけない。そんな気がしていたから。  「柴咲家」の祭壇の花はひと際大きいもののような気がしていた。こんなところで「柴咲」の名前にお目にかかることになるとは。でもそうか、別れた夫の柴咲の家と私の実家の酒々井とは仕事で懇意にしていたところだったし。当然といえば当然なのかもしれない。  
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