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第二章・君が見えない 3ー③
日菜子は、女の子の向けのアプリ開発やネット事業、イベントプロデュースに活かす事業を展開し、一躍、業界に躍り出たネット界の風雲児だった。
若手の起業家は最初の1年で潰れてしまう者も多かったが、日菜子はもう3年も勝ち組の道を歩いている。
女子が喜ぶようなキラキラとした待ち受け画面や、ホームページの装飾など、奇抜なデザインで女子学生からOLにも受け、大企業からも依頼が来る程のやり手だった。
「今、渡辺の会社のホームページとか、ちょっとやったってんねん。あと、会社ってこんなもんよ~っていう指導とか。指導って言うたら、エラソーやけど」
「凄いねんな。日菜子ちゃん」
「うん。ここは、渡辺にも負けてへんしね」
七海が、収入も実績も上げてからでなければ結婚出来ないという気持ちが分かるような気がした。
日菜子は、見た目は今時の女子高生のように見えたが、毅然たる自立した女性だった。
それでも同棲となれば、プロポーズとまではいかなくても、告白はしたのだろうとは思う。
堅実な七海が、そう無責任な事はしない筈だからだ。
「えっと……日菜子ちゃんは、ナナの彼女やんな?一緒に住んでんやから」
「私はそのつもり……なんやけど、どうかなぁ?渡辺んとこは、ほとんどが仕事場みたいな感じやしね。まぁ、特別な気持ちではいてくれてると思うねんけど」
「そっか……」
どうやら想いは通じていても微妙な感じなのは、七海がまだ踏み切っていないからなのだろう。
他人が横から口出しすべきではなかったと、将人は反省した。
本人同士の問題に首を突っ込むような事をしてしまった。
だが、この件はもう触れまいと決めた途端、日菜子の方から突っ込んで来られた。
「将人君に、渡辺の背中、押して貰いたいねん」
「はぁ?!」
「渡辺って、何かこう、私らの事は仕事が軌道に乗ってから、とか思うてんのか知らんけど、ヤキモキすんねんよ。将人君から、急かしてくれへん?」
「急かしてって……」
「私らの仲が進展するように、盛り上げてぇな」
「そんな……」
自分の気持ちに気が付いて、その途端に絶望的に報われないと分かり。
更に、その敵を手助けして、自らの傷に塩を塗り込むような事が自分に出来るだろうか。
将人は、自分が不器用な質なのは分かってはいたので、日菜子の応援はするが手伝いは出来ないと断った。
自分の不手際で、二人の仲を拗らせてしまったらなどと思うと、迂闊な事はしたくない。
すると日菜子は、「そんな大層な事はさせないから。ちょっと、助け船出したりとか位だから」と言って、逆にすまなそうにしていた。
「例えばな、渡辺が好きな物とか教えて?」
「野球は好きかな。小さい頃から、それは観てたみたいやし」
「デートは甲子園やな。せやけど、私、巨人ファンやねんけど……」
「それはアカンわ。ナナはタイガースやから逆に球場で喧嘩になる」
「そやんなぁ」
「ナナの飲み物は、サイダー一択や」
「そういえば、冷蔵庫の中、サイダーと水しかなかったわ!」
「サイダーの味付けやったら、飴でも何でも好きやねん」
「うふふ。渡辺、子供みたいで可愛いな。将人君には是非とも結婚式の友人代表で、『完璧なる男・渡辺の欠点』を面白おかしく語って貰わんとね」
買い物を終えて出て来た七海は、まだ不機嫌そうな顔をしていた。
何か話したそうにはしていたが、将人も仕事には戻らなければならなかったし、日菜子がいたのもあって、その場は別れの挨拶だけしか出来なかった。
七海がどんどん遠くなる。
それは前から分かってはいたが、現実を直視させられると辛い。
将人は元から女性に興味が薄かったが、朋子との一件から女性に対して忌避感しか湧かなくなっていた。
だが、自分の性的対象が男に向いているのかと言われれば、よく分からない。
今まで恋をした事がないと思っていたが、それは恐らく昔から七海しか見ていなかったからだ。
いつから、七海を好きになっていただろうか。
いつから、友情が恋に変わっていただろうか。
出会った瞬間から、恋に落ちていたといえばそうかも知れない。
親友だと思っていた時も確かにあった。
気が付かない間は、恋情と友情が、行ったり来たりしていたように思う。
だが、これからはもう、その想いが通じる事はない。
元より七海は、恋愛対象が『普通』に『女性』だというだけで、将人には寸分の希望もない。
せめて、この気持ちを知られて幼なじみという立場まで失いたくはない。
押し隠そう。
将人は、七海と幼なじみであるという立ち位置だけは、失いたくはなかった。
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