3. その呼び方はやめてください

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「特に何回か一緒に仕事してるクライアントだと、相手の好みも求めるテイストも分かってくる。 だから最初の1発目でそれを出すけど、相手は『もっと他にいいのが出てくるんじゃないか』と期待するわけだ」 言っていることはなんとなく分かる。自分にも経験があるから。 買い物で1軒目のお店で欲しいと思っていたドンピシャのものを見つけても、他のお店にもっと気にいるものがあるんじゃないかと思って、敢えて買わずに他のお店をハシゴすることがある。 他のお店でもっといいものが見つかることもないわけではない。 でも大抵は1軒目のお店に戻って、最初からこれを買っておけばよかったとなることがほとんどなんだけど。 「別に手は抜いてないし期待に応えようとは考えてるけど、結局一番初めに『これだろうな』と思って出したのが選ばれるパターンがほとんど。だから選ばれないんだろうなと思いつつも、次の打ち合わせに向けて案を出す。これはその残骸ってわけ」 デザイン業界でよく聞く捨て案というやつだ。 私はもう一度ファイルの中に目を移してパラパラとめくってみると、そのどれにもデザインコンセプトや特長、寸法などがきちんと書き込まれている。 ――そっか、その場で採用されなかったものは、クライアントは持ち帰ったりもしないんだ。 (そういうことがあるのは知っていたけれど…) 実際に目の当たりにすると何ともいえない気持ちになる。
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