3. その呼び方はやめてください

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「別にクライアントが悪いわけじゃない。人間の心理はそういうものだから。それにそういうクライアントは稀で大体は数回以内に決まる。まぁそこは本当にクライアント次第。最終的に3択くらいまで絞ったら社内に持ち帰って検討会議にかけられる。 その社内会議で全部ひっくり返されてまた1からっていうこともある。いちいち引きずってたらやってられない」 難しい顔をしている私とは対照的に、新堂さんは割り切っているみたいにあっさりとそう言う。 私はファイルを持って部屋の隅にあるシュレッダーの前に行くけれど、どうしてもそれをかける気になれない。 「どうかした?」 「…その、なんかもったいなくて」 特にクライアントに選ばれるまでに、その裏にこんなにも日の目を見ない努力の跡があるのだと知った今では。 新堂さんの努力を跡形もなく消していく作業は、まるでそのすべてを無かったことにしていくみたいで、私の気持ちは簡単に割り切れなかった。
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