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それからどこへ行っても断られた男は、ついに腹が減りすぎて動けなくなってしまった。
ベンチで横たわっていると、ひとりの老人が顔を見せた。
「どうじゃ? 少しは懲りたかの?」
横たわりながらうっすら目を開ける男。
たった半日なのに、その顔はげっそりと痩せこけていた。
「魔法でおぬしの時間だけ早送りさせておったのじゃ。今のおぬしはまる3日、何も食べておらん状態じゃ」
何が何やらわからなかったが、男は考える気力も失っていた。
「これに懲りたなら、もう二度とバカな真似はせんことじゃ」
老人はそう言うと姿を消した。
すると不思議なことに男の中の空腹感がだんだんと薄れていった。
いや、少しは腹が減っているが、1食分抜いた程度の腹の減り具合だった。
(なんだったんだ、あのじいさん)
ベンチから起き上がった男は、スマホを取り出した。
そこには自分が書き込んだ低評価のレビューだけが書かれており、自分の顔写真など載ってはいなかった。
不思議に思いながらも、男は最初に立ち寄った食堂に顔を出す。
水を持ってきた店員に恐る恐る「Aランチ特盛で」と頼むと、しばらくして本当にAランチがやってきた。
「め、飯だ……」
震える手で箸を取り、料理を口に運ぶ。
なつかしさがこみ上げてくるほどの美味しさだった。
「う、うまい」
熱々の料理で空腹の胃が満たされて行く。
男は涙を流しながら料理をかきこんだ。
空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。
それでなくとも、行く先々で断られ続けた食べ物をこうして食べられるというのが幸せだった。
「ごちそうさまでした」
男は両手を合わせてそう言うと、スマホを取り出してひとつひとつ低評価のレビューを消していったのだった。
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