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「おお、これは」
僕を見守ってくれていたのは、幾千幾万の星の様な輝き。星ではない。
「申し訳ありません。
実は、僕は車内の映像をずっと、ネットで祖国に配信していたのです」
「なんと。すると、まさか」
上がり続けるアラビア数字のカウンターは同接している視聴者の数。百億を超えてもまだまだ増えて行く。
つまり今、愛車の周囲にいるのは、じっとしてはいられなくなって、地球までやって来てしまった日本を愛するフォロワー達。
桜色に染まる龍の姿を一目見たいと、遥か遠い国から駆け付けた人達が乗った大小様々な白銀の車の群れが、星の様にさざめいているのだ。
「みんな、来年も再来年もずっと桜が見たいと言っています。
日本国民どころか地球人でさえありませんが、数だけは集まりました。日本の為なら税金を納めても良いという者も大勢いるはずです」
「ふふ。遠路遥々宇宙を駆けて、花見の為にわざわざやって来たと言うのか。呆れた。
世の中には……いや、宇宙の上にもいろんな奴がおるものだ。
だが、これは確かにそれだけの価値ある眺めと私も思う。
良いだろう。そなた達に免じて今は暫く、様子を見る事にしようか」
「ありがとうございます」
「だが、勝手に私の姿を他人に見せたとしたなら、それはプライバシーの侵害ではないかな」
「いやあの、それは」
そして彼女は僕の頬に顔を寄せた。えっ?
「ふふ。冗談だ、それは許そう。
今宵は素敵なドライブに誘ってくれて感謝しておる。
皆が見ているのならばそなたの言った通り、拍手喝采口笛の嵐としようではないか」
ぞっとする程美しかったはずの彼女の姿を、なぜか僕は全く思い出せないと言ったけれど。
本当は一つだけ覚えている。
「良いものを見せてもらったご褒美だ」
確かにこの頬に触れた唇は、まるで空をひらりと舞う薄紅色の花弁の様だったと。
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