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私です。
梶井基次郎が書いた『桜の樹の下には』という作品から、桜の樹の下には死体が埋まっている、という話が、今や都市伝説として、広く語られています。
私は貴方に復讐に来ました。
貴方がまだ若い頃、赤ん坊を桜の樹の下に埋めましたよね。桜色の絨毯がどこまでも広がり、桜色の霧がどこまでも広がり、桜色の香水がどこまでも広がる春の日のことです。
私は貴方の赤ん坊ではありません。
一本の桜が、貴方が都市伝説を信じて埋めた桜の樹が、赤ん坊を哀れに思い、自らの精を分け与えて、赤ん坊は土の下ですくすくと成長しました。
私を恐れないでください。
桜の樹は赤ん坊に恋をしていたのです。立派な女性に育った赤ん坊に、桜の樹は根を絡め、みしみしと音を立てながら赤ん坊と番いになりました。
私の正体です。
まろやかな甘みの精を吸って、私は大人になりました。樹の根の股から這いずり出て、一本の桜の枝を、父の右手の薬指を持ってここに来たのです。
最期のお花見になりますから、存分に父の美しさを、傷口から感じてください。それでは、母を殺された恨み、今から晴らします。
お許しください、おばあさま。
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