恋人にはまだ遠い⑤★

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恋人にはまだ遠い⑤★

   ああ、ぐちゅぐちゅと淫猥な音がハンドクリームのせいだなんて思いたくない。  手が荒れたとしてもしばらくハンドクリームなんて使えそうもない。  そもそも ハンドクリームをこんなコトに使ったなどと知ったら、持ち主はどんなに衝撃を受けるだろうか────    大知(だいち)は良い様に揺さぶられながら、すでに思考が惚けていた。というより現実逃避だ。  そうでなきゃ、滑稽にもネクタイを必死に噛みしめながら嬌声を堪え、ただの同僚であるはずの彼にこんなことをされて、ふざけるなと殴り飛ばすことすら出来ず、あまつさえどんどん気持ち良くなってきて、いっさい抵抗する気力が無くなっている己をどうしたらいいというのか。  優しく、と言った言葉通り、奧の狭まりを容赦なく突き上げられるような真似はされず、いっそもどかしい位、腰をゆったり引きながらうねる緩慢な動きと凝乳状の滑りが入り口の摩擦を助長する。  更には下腹の内側の膨らみを掠め、時折 押し上げるように突いていく。  気持ち良いと覚え込まされた箇所の詳細はその優秀な頭脳から消される事は無いのだろう。 「っん、んうっ、んん、んーー・・・」  どうしたらいいのかわからないくらい気持ちが良い。  その証に、舌先で捏ねられた胸の突起は尖り、深山の腹の下で勃起している自身の先端からは、雫が しとどに零れ落ちている。  視界の隅に映るそれを他人事のように感じながら、ひたすら続く律動に身を任せていると、額に浮かぶ汗を舐め取られ、煽るように深山が囁いた。 「この間よりもずっと気持ち良さそうだね、大知。こんなシチュエーションが気に入ったなんて、君も大概 好き者だ」 「ん、んん、」  反論してやりたいが、睨もうとする視線に今更 力など籠らない。  潤んだ瞳はさぞ もっとと強請っているように見えているのだろう。  実際、かの一点をぐちぐちと捏ね回される度に思考は胡乱になり、触れて欲しいと主張し続ける性器も焦らされることなく存分に扱かれ。 「んっく、・・・ふ、っ、んん、」  もう快楽に従順になっていくのを抑えられない。  でも、声だけは抑えなければ。  まるでなけなしの理性を繋ぐ頼みの綱のようにネクタイを握っている大知を見下ろす深山はうっすらと笑い、喘ぐ口元に手を伸ばしてきた。 「それ、取ろうか?」  それ、とは勿論大知が嬌声を押し殺すために噛みしめているネクタイのことだ。  意地悪くタイを引かれ、大知は我に返った。  歯をたてる布地は既に唾液まみれで不快だが、それでもこれが無ければ声を殺せそうにない。  しかも、散々静かにしろと強要して押し当ててきたくせに、わざとそんなことを言うなど加虐的で身勝手にも程がある。  非難の目を向ける大知に深山は苦笑し、ネクタイから手を離した。 「なら最後までしっかり持ってて、ね」  ね。と発せられた言葉と同時に、深山は大知の腰を抱え直すと大きく揺さぶった。 「っ!?、ん、っんぅん、」  くぐもった嬌声は止められず、突き上げられる度に溢れる。  前立腺を掠めながら奧を穿つ抽挿と共に、性器も根元から扱かれ、汗なのか熱なのかが一気に思考をあやふやに埋め尽くしていく。 「ん、ぅんん、っん、っんん────」  狙った場所へ張りつめた先端を押し付けられた瞬間、大知は身悶えする間も無く、扱かれ続けていた先から勢い良く達した。 「ん・・・」  一気に脱力し、噛みしめ、握っていたネクタイがするりと落ちた。  だが、すぐに激しく腰を貪られ大知は慌てて口元を押さえたが間に合わず、 「ん、あ、ああぁっ」  声を止められないまま衝撃に仰け反る背を掻き抱かれ、何度も尻に叩きつけられる。 「っああ、んあ、っあ、────」  もう、止めて、と哀願のように深山の背に手をまわすと、太股の付け根を強く掴まれ浅い抽挿になった瞬間、中に熱を吐き出されるのを感じた。 「────っ」  泣きたい。  こんなところで、結局最後までしてしまった。  しかも。   「どうしてくれるんだ・・・」    当たり前のように中で出され、しかも服はぐちゃぐちゃ。  もう絶対泣く。  悲壮な声を出す大知に、深山は涼しい顔で身を起こすと、すぐ傍のデスクの上に手を伸ばし、ティッシュを取る。 「そんなに心配しなくても奧に出してないから、すぐに掻き出せるよ」  そんな事後報告と解決策なんて聞きたくない。 「会社に来るのに、僕はゴムなんて持ち歩いてなくてね」    お前は持ち歩くな、絶対。   「でも、またこういう事があるかもしれないから毎日用意しておこうか?」    死んでもやめてくれ。  というより、“また” ってなんだ。  こんなこと二度とあってたまるか。   「“また” なんてものは無い!!」    喚いても全く意に介されず、さっさと大知の足を持ち上げ深山は後始末を終えるとシャツのボタンをはめ直してネクタイを締め、ご丁寧にボトムまで正して靴を履かせてくれて、すっかり元通り、  ────なワケがない。  時計を見れば、あと数分で深夜零時。  急ぎたくても腰やあらぬところが痛いし、とにかく疲労で大知はふらふらだ。  それでも早くここを出なければ出入り口を施錠されてしまう。  諸悪の根源を睨めば、深山は大知がさんざん嚙んでしまったネクタイを拾い上げ、ジャケットに突っ込みスマートフォンでどこかへ連絡をしていた。  あのネクタイを見る度 今日のことを思い出しそうだから、捨ててくれと思わずにはいられない。  とりあえず、恨み言を言うなら まずはここを出てからだ。  ヨロヨロしながらもエントランスへ向かおうとする大知だったが、腕をつかまれ身体を支えられた。 「タクシーを呼んだから、一緒に帰ろう」  どうやら深山は先程のコールで社のタクシーを呼んだらしい。  しかし、今、“一緒に” と言わなかっただろうか? 「俺は一人で帰る!」 「そんなフラフラした状態で?」 「誰のせいだと思ってんだ!」 「だからタクシーを呼んだんだよ」 「一人で帰る!」 「そのヨロヨロした足取りで?」 「・・・・・・・」  この堂々巡りの会話を中止させるべく、大知はスマートフォンを取りだした。  最初から自分もタクシーを呼べばいいのだ。  すると、スマートフォンを深山に取り上げられた。 「な、返・・・」 「今夜は僕の家に泊りなよ」 「は!?」  冗談だろう、と言う大知の目の前で、深山に握られている己のスマートフォンがミシミシと不穏な音を立てる。 「もしかして、真白(ましろ)くんの家には泊まるのに、僕の家には泊まれないのかな?」  真白(ましろ)の家に泊ったのは不可抗力だ。  しかも何だろう。張り合っているのだろうか?  そして、目が怖い。口元は微笑んでいるのにやはり目が笑ってない。怖い。嫌だ、もう。  しかし、ここで うん、と頷かなければ人質同然に奪われたスマートフォンは無残な姿となるだろう。  それはこの間 買い替えたばかりの新機種だ。  水濡れや紛失、全損等のあらゆるトラブルを補償! なオプションに加入していても、同僚に握りつぶされました、と説明して、果たしてサービスは適用されるのか。   「僕と一緒に帰るよね?」    手を差し出される。  その手を取ったが最後、な気がしないでもなかったが、大知は不承不承、深山の手を取った。  結局、ヨロヨロと歩く大知を支えるその手は、エントランスロビーにいる守衛の前でも離してはもらえず、  更には追い打ちのように、守衛から   「お仕事お疲れ様ですね。明日は休日ですからゆっくり休んで下さい!」    などと言われ。 「大きなお世話だ!」  大知は涙目で喚いたが、横では深山が吹き出し、笑いだす。  思い切り睨んでも全く効力はない。  エントランスを出れば、すでに到着していたタクシーに乗る事を大知はかなり抵抗を感じたが、渋々乗り込もうとした。  すると、ふいに腕を取られ深山が顔を寄せてきた。  まさかこんなところで、と思ったが、いつものように口付けられることはなく、深山は静かに大知を見つめていた。  そして、おもむろに口を開く。   「ただの同僚となんて、あんな事はしないよね?」    わかっていながら触れてきて、わかっていて人を散々振り回し、そんなことを言う深山の卑怯なやり方はやはり何も変わらない。  もしかしたらこれからも変わらないというのだろうか。  だが、大知は知らない振りをして精々語気を強めた。   「それでも、恋人などにはまだ遠い!」              end.   オフィスでナンチャラ編はここで終わりですがまだもう少し、恋人になるまでの話が続きます。 スター特典の話を書きましたので、よろしければ見てやって下さい。 エブリスタのみの公開です。
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