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一瞬で指先まで冷たくなった。胸がドキドキする。
この坂は、ゆるやかだけど長い。あんなふうにブレーキをかけずに下れば、交差点に差し掛かる頃には……
「遥香?」
心配そうにのぞきこむアメリに、バカヤローはあんただよと言いたくなる。私を一番傷つけたのは誰だと思ってるんだ。
でもまさか、そんなこと言えない。言えるわけない。
「大丈夫」
がんばって口の端を上げてみせる。アメリはホッとした様子で表情をゆるめ、「花びらついてるよ」と私の頭に手を伸ばした。
「え……っ」
驚いて目を上げる。細い指が、髪に触れる直前。アメリは少し困ったような笑顔で動きを止め、私のおでこにフッと、息を吹きかけた。
前髪が、風でばらけて。私とアメリの顔の間を一枚の花びらが、ひらひらと舞い落ちた。
「アメリ……?」
ここにいるアメリは、私の妄想でしかないのかな……そう、何度考えたか分からない。あの子の声で、あの子が言いそうなことを、私の脳が都合よく作り出している幻なのかなって。
だけど。それならどうしてアメリは、私がさくら坂にいる時にしか現れないんだろう。どうしてときどき、本当は自分が幽霊だと気づいているみたいな素振りを見せるんだろう。
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