残されたもの

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俺……無神経にあんな事言ったのに…… 「寝てる時は枕元に置いてるのに、学校行くとなくて、多分ずっと持ち歩いてたんだと思う。あの子にとって、ちゃんと向き合って話もしない母親より、ずっと心の拠り所になってたんだと思うわ……ありがとう」 そう言って泣いている 「俺は……ありがとうなんて言ってもらえる事…してないです。もっと俺が気付いてたら、何か出来たかもしれないのに…全然気付かないで、笑って…多分里桜が傷つく様な事も言ってたと思います。里桜は、色んな思い抱えて1人で会いに来てくれたのに……俺…何も……」 そんなに嬉しそうに話してたんだ あの、たった1枚のポストカードじゃなくて、ちゃんと俺が拠り所になれる人間だったら…… 「柚紀君、里桜と何処か綺麗な景色見てくれたでしょ?里桜が居なくなる数日前にね、その日も私は忙しくしてたんだけど……寝る前に里桜がね、今日、凄く綺麗な夕焼け見て来たんだって。凄く綺麗な夕焼け、凄く綺麗な絵を描く、凄く綺麗な柚紀君と見て来たんだよって教えてくれたの」 あの時の…… 「綺麗な場所が見たいって言ったので、俺がたまに絵を描く、丘の上の公園に行ったんです。里桜……ほんとに凄く嬉しそうに、ずっと景色見てました」 「……そう。ほんとはね、その時の話もゆっくり聞きたかったんだけど、忙しそうにしてる私を見て、おやすみって寝てしまったの。誰との生活を守る為に必死になって働いてたのか……。仕事よりも、ずっと大切な事から、私はずっと逃げてたんだわ……」 そう言っておばさんは、寂しそうな顔をした 「俺は…」 ずっと黙ってた佐野が話し出す 「子供だし、こっち側の事情とか、全然分かんないけど……でも、おばさんが働いてくれないと、里桜は柚紀の学校に来る事も、あのポストカード買う事も出来なかったかもしれないし……また会いたいと思った時に来れなかったかもしれないし……高校生にもなって、おばさんが誰の為に、話す暇もない位一生懸命働いてるのか、分からない訳ないと思うし……だから、出来なかった事も、後悔する事もいっぱいあるだろうけど、おばさんが頑張ってきた事まで否定はしなくていいんじゃないかって……思います……」 「……ありがとう……そうね、本当に綺麗な人達だわ。少しだったかもしれないけど…あの子が、あなた達みたいな人に出会えてたって知れて嬉しいわ。ありがとう……あの子に綺麗な世界を見せてくれて、ありがとう……」 そう言って、おばさんは泣いていた
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