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佐野
「おはよう、柚紀。なあ、なあ、ちょっと」
「おはよう、佐野。何?」
教室入るなり、佐野が窓へと連れて行く
佐野は、俺のクラスメイトだ
明るくて
誰にでも話し掛けて
口では色々言ってるが、優しい奴だ
「あれ!今、玄関に向かってる、ほら、真ん中の、あの子」
「真ん中?」
「そう。あ、友達に声掛けられて、振り向いた!」
「ああ…。あの子?」
「そう!いいと思わない?」
「いい?……さあ?あんまり良く見えなかったし…」
「え~?っんだよ、せっかく素晴らしい1日の始まりにしてやろうと思ったのに~」
そして、女の子が大好きだ
一部を除いて…
「ふっ…佐野は見れたんだから、素晴らしい1日の始まりになれただろ?」
「俺は共感したかったんだよ!しょうがないな。今度、校内で見かけたら、教えてやるよ」
「ははっ、ありがとう。佐野は優しいな」
「んなっ!…その、きらきらやめろ!」
きらきら?
「柚紀君!今日も私達に癒しをありがとう!」
「?…うん?まだ、何もしてないけど…」
この子達は、俺と瑞紀が話してると、いつも癒しをありがとうと、嬉しそうに見ている
「ううん!十分よ!」
瑞紀が居なくてもいいのか…
「でも、欲を言うのなら…」
「?…何?」
「出来れば、佐野の袖を掴んで、佐野の顔を見上げてくれたら嬉しいなぁ…なんて」
この子達が言う事は、いつも大抵理解が出来ない
「……だって?佐野」
「だって?じゃねぇよ!お前ら、柚紀が何でも言う事聞くからって、調子に乗るなよ?」
「何よ?佐野!チャイム鳴っちゃうから、さっさとしなさいよ!」
「は?」
始まった…
俺に巻き込まれると、佐野は、この子達といつも口喧嘩になる
でも……
「ねぇ、佐野。きっと、さっきの子を見て、佐野が元気になれたのと同じだよ。ね?」
「ぐっ……」
佐野が仕方なさそうに、少し離れた位置から戻って来る
「ありがとう」
そう言って佐野の顔を見上げながら、右の袖を掴むと、
「きゃ~!それ~!それそれ~!」
「ありがとう!柚紀君!」
「もう、今日1日幸せだわ~」
どうやら、今回も任務達成のようだ
どうして、何が、あんなに嬉しいのかは、分からない
でも、誰かと喧嘩したり、泣かせたりじゃなく、仲良くしてる所を見たいって言うのなら、いくらでも見せてあげよう
「嬉しそうで、良かったね?佐野」
「柚紀…お前、天然酵母で出来てんのか?今流行りの、固くて酸っぱいパンなのか?」
「……パンの話?だったらメロンパン」
「メロンパンか~。そうだな…中にも甘いの入ってるやつな。外にも砂糖振りかかってて…」
「……うん?」
「はあ~。分かった。今度お兄ちゃんが買ってあげるよ」
「佐野はお兄ちゃんじゃない。俺にはちゃんと、瑞紀っていうお兄ちゃんが居る」
どんどん話が迷宮入りしていく……
「そうだよなぁ……。あれじゃ、メロンパンにもなるわな~」
「…………」
もはや、何て返したらいいの分からない
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