第1話

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第1話

▶12月25日・朝       ベッドで一緒に寝ていた男女が目を覚し、ベッドの中で会話をし        ている。 女「ねぇ、年越しはどうするの?」 男「実家で過ごそっかなって」 女「そっか。私もそうしようかな」 ▶1月1日・朝        年が明け、実家で目を覚ます男。起きてすぐスマホを見る。彼女       からのLINEメッセージに気づく。 彼女メッセージ「別れよ。」       驚いた男が叫ぶ。 男「えーっ。なんでー」 ▶居酒屋こよい・テーブル席(1月6日・夜)       幼馴染みの同級生男3人が仲間内で新年会を開いている。彼女に       振られた男が、ほかの2人に上記の振られるまでの経緯を話す。       すると友達の2人が爆笑する。 友達1「ギャハハハハ。お前って、ほんと鈍臭いっつうか。なんつうか」 友達2「付き合って3か月。しかも初めてのクリスマスからの正月っていうイ    ベント続き。普通はラブラブ絶頂だろ。あはははは」 「何がおかしいんだよ。連絡取ろうと思っても拒否られてて理由も分かんない  し。これでもかなり落ち込んでんだぞ」 友達1「理由?お前がMだからじゃね?」 友達2「ギャハハハハ」 「それ関係ないだろ。…あんのかな」 友達2「今回は上手くいってそうな話してたのにな」       スマホの彼女の画像を見ている振られた男。 友達1「(振られた男のスマホを取り上げながら)ちょっと見せろよ。すげぇ   かわいいじゃん。今度、俺に紹介しろよ」       少し怒る振られた男。 「なんでだよ。あーもう。やっぱお前らに話すんじゃなかった」           少し真面目な表情をして話す友達。 友達2「ごめん、ごめん。でもお前が辛そうだから、逆に俺らが笑い飛ばして   やろうって。な?」 友達1「そう、そう。けどごめん。調子乗り過ぎた。とりあえずどんどん飲   め。今日はおごりだから。な?」 友達2「おい。こいつは払わなくていいけど、俺らは割り勘だろ」       2人の優しさに笑顔になりながらも泣き出す振られた男。 「…ありがとう」 友達1「おーい、泣くなよ。エムト」(エムト:M気質だったために中学、高   校時代につけられた振られた男のあだ名)       また爆笑する友達2人。 友達2「ぷぁはははは。エムトって呼び方、久々聞いたわ」       少し怒る振られた男。 「もー。やっぱからかってるだけじゃん」       爆笑し続ける友達2人に怒る振られた男。 「笑うなー」 ▶居酒屋こよいからの帰り道(1月6日・夜)       新年会が終わり、1人で歩いている振られた男。 モノローグ「また振られた。理由はどうせ前と一緒だ」       振られた男が次を回想する。 ▶【回想】通り(2年前、24歳の振られた男・秋・夜)       デート帰り。当時の彼女と歩きながら会話している。 彼女「あのさ…私のことって別に好きじゃないよね」 「そんなことないよ」       静かに怒る彼女。 彼女「そんなことって…。なんで好きって言えないの?」 「えっ…」 彼女「…私達が会う意味って何?」 「…」 彼女「なんで黙るの?」 「…」 彼女「もういいや」       男を置いて、足早に去って行く彼女。 「えっ。待っ…」 ▶振られた男のアパート・部屋・ベッド(1月7日・朝)       朝日を眩しそうにしながら目覚める男。 「ん?家か…」       起き上がろうとするも二日酔いのため倒れ込む。 「うー、吐きそう」 ▶精神科病院・中(1月8日・朝) 看護師「高梨 征人(たかなし まさと)さーん」       「はい」       待合室から診察室に入った振られた男。 医師「調子に変わりないですか?」       いつもの医師とは違う女性医師に緊張する男。 「あっ、はい」 医師「お薬もちゃんと飲んでます?」 「はい」       診察が終わる。 医師「では、お大事に」 「ありがとうございました」       診察室から出て行く男。医師が男を呼び止める。 医師「あっ、ちょっと」 ▶サ高住・征人の部屋・中(1月8日・朝)       精神科病院からサ高住(サービス付き高齢者住宅)へ戻った振ら       れた男と高梨征人。 振られた男「はい、高梨さん。お部屋到着です」    …… 振られた男の名は、緒方 瑛斗(おがた えいと)26歳。主人公。        サ高住に介護職員として勤務する。瑛斗はサ高住に入居する軽度        認知症の高梨征人の病院受診に付き添っていた。       征人の部屋に戻るなり大きな物音がする。 「ガシャン」       音がしたラウンジへ行く瑛斗。 ▶サ高住・ラウンジ(1月8日・朝)       瑛斗がラウンジに駆けつけると、昼食のため配膳準備をしていて       食器を落としてしまった女が片づけをしている。 女「(瑛斗に気づき)あっ、緒方さん。すみません」    …… 女の名は、瑛斗の職場の後輩、介護職員の赤峰 恵夢(あかみね       えむ)23歳。       恵夢と一緒に片づける瑛斗。 瑛斗「大丈夫、赤峰さん。怪我は?」 恵夢「はい。大丈夫です。すみません」       食器を片づけている2人の前にサ高住入居者Aが現れる。 入居者A・男「あーぁー。赤ちゃんは、おっちょこちょいだなぁ」(赤ちゃ    ん:入居者らがつけた恵夢のあだ名) 恵夢「すみません」       顔を上げず、片づけながら静かに話す瑛斗。 瑛斗「そんなに謝んないで。別に悪いことはしてないんだから」 ▶サ高住・職員事務室・中(1月8日・夕方)       勤務が終わり、帰ろうとする瑛斗。 瑛斗「お先に失礼します」 複数の職員「お疲れ様でした」       帰り際に恵夢を目にする瑛斗。 瑛斗「まだ仕事?」       恐縮した様子の恵夢。 恵夢「はい。少し。今日はありがとうございました」 瑛斗モノローグ「そんなにいつも緊張してなくても」 瑛斗「そんなに硬くしないでいいよ。じゃ、お疲れ様」 恵夢「はい。お疲れ様でした」 ▶居酒屋こよい・テーブル席(1月8日・夕方)       征人の病院受診時、医師に呼び止められた瑛斗は、医師の誘いで       食事をすることになっていた。席に着いて医師を待つ瑛斗。30       分ほど遅れて医師がやって来る。 医師「ごめんね。遅くなっちゃって」       緊張している瑛斗。 瑛斗「いや。全然」 医師「先に食べてて良かったのに」       医師にぎこちなくメニューを渡す瑛斗。 瑛斗「なんにします?」 医師「じゃ、ビールと唐揚げと卵焼きとシーザーサラダ…とりあえずそれで」       店員を呼ぶ瑛斗。瑛斗が注文を終えると医師が話し出す。 医師「すっごい久し振り。私の結婚披露宴以来だから、4年振りかな」 瑛斗「だね。にしてもびっくりした。まさかあそこにいたなんて」 医師「産休に入る先生がいたりとかで、少し前からあの病院に勤めてるの。瑛     斗が転職とかしてなかったら、偶然会うこともあるかなとは思ってたけ   ど」       注文したビールが届く。 医師「ねぇ、久し振りだからってよそよそし過ぎない?普通にしてよ。幼馴染   みなんだから」       少し笑う瑛斗。 瑛斗「え、うん」       笑顔を見せる医師。           …… 医師の名は、江角 夕海(えすみ ゆみ)31歳。主人公。瑛斗の実       家と夕海の実家は近所であることから、瑛斗と夕海は幼少期から       の幼馴染み。 夕海「じゃ、とりあえず乾杯」       2時間ほど経過し、打ち解けてきた2人。 夕海「ところで彼女は?」 瑛斗「うん…少し前に振られちゃって」 夕海「あ…なんか、ごめん」       うつむく瑛斗。 瑛斗「いや別に。謝らないで。悪いのはどうせ俺なんだ…」       気を遣ってお開きにしようとする夕海。 夕海「今日は久し振りに楽しかったな。ありがとう。明日も仕事でしょ。そろ    そろ帰んないとね」 瑛斗「あ、暗い感じにしちゃってごめん。大丈夫。せっかくだから気晴らしに   もう1軒くらい」 夕海「うん。じゃあ、行こっか」 ▶カラオケ店・客室・中(1月8日・夜)       並んで座る瑛斗と夕海。何曲か互いに歌うと、夕海は自分が歌う         曲を入力するも寝てしまう。せっかくなので、瑛斗はキーを下げ       てそれを歌う。瑛斗の肩に寝ている夕海の頭が乗る。動揺する瑛       斗。夕海の寝顔を見て微笑むと、夕海を起こすことなく歌いき       る。       酔い潰れてなかなか起きない夕海をなんとか起した瑛斗は、夕海       の案内でふらつく夕海を支えながら夕海のマンションへ行く。 ▶夕海のマンション・夕海の部屋・玄関(1月8日・夜)       玄関のドアを開ける瑛斗。玄関に座り込む夕海。 夕海「あーありがとう」 瑛斗「ちゃんと部屋で寝てよ。じゃあ」       帰ろうとする瑛斗の手を引っ張る夕海。 夕海「上がってけば。誰もいないし」 ▶夕海のマンション・夕海の部屋・ベッド(1月8日・夜)       体を重ねる瑛斗と夕海。 ▶瑛斗のアパート・瑛斗の部屋・ベッド(1月9日・朝)       ベッドで横になっている瑛斗。起き上がろうとするも倒れ込み、       大きな溜め息をつく。 瑛斗「はあー」 瑛斗モノローグ「俺は複雑過ぎる自分の感情を読み解くことができなかった。   と言うより読み解こうとしなかった。例え読み解くことができたとして   も、流れに身を任せるだけ。どうせ何もしないのだから。   …なんて、何もしようとしない自分にそれっぽい理由をつけるのだけは上   手くなった。本当は嫌いな自分と向き合うことになるのが嫌なだけ。ただ   それだけのことだった」
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