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 しかし勝負は決しそのまま終幕に思えたその時。ミシェルはまさに戦場に立つかのような表情へと変わると無駄のない動きで立ち上がりそのまま剣へ手を伸ばすのと同時に走り出した。  そして地面を一蹴し跳び上がると頭上で剣を構え斬りかかった。軋む程に握られた剣は綺麗な直線を描きながらルシフェルへ。鋭く、殺す事を躊躇わない。それは戦場の一振りだった。  空気すらも切り裂くそれは瞬く間にルシフェルの頭へと接近。  だがルシフェルは振り向かずして、見えているかのような完璧なタイミングで左足を軸に身を翻した。餅つきの絶妙な連携にも負けず劣らずの紙一重で躱されそのまま地面を叩く剣。  一方でルシフェルは右手を左腕の傍で構えた。微かに開いた手は空を握っている。  するとそんな手中へ、一瞬にして現れた刀。ミシェルが弾き飛ばしたあの刀だ。鞘は依然と刃を封じ、地面に転がっていたはずの刀はやはり消えている。  そして時が止まったかのような中、二人の視線が交差すると――ルシフェルは鈍器と化した刀を斜線をなぞるように振り上げた。鎧を身に纏った彼女の体が宙へ浮き放物線を描き地面へと落下した事が、顔面を捉えた刀の一撃が強烈だった事を十分に物語っていた。  受け身も取らず背中から落下した際の衝撃か、一振りを顔面に受けた際の衝撃か――倒れたミシェルの双眸は蒼穹を見上げること無く、瞼は完全に閉じられていた。  だがそんな彼女を気に留める事は無くルシフェルは踵を返し歩き出す。 「余興としては悪くない」  ペペは内心ホッと安堵の溜息を零すが、口に出す声は一瞬のブレもないまま。結末を知っていたというより、興味がないと言うような口調だった。  そして姿勢はそのまま横目でクレフトを見遣る。
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