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受け継がれる名前
私の存在がはっきりと認識されたのは、祖父の葬儀の時だった。
その日私は、祖父の付き人だった人と一緒に隅の席に座らされた。一般の弔問客席の最前列。一番前には大奥様と康太郎おじさんにおば様、その子供達が座っていた。
康太郎おじさんは私に近付こうとしていたみたいだが、大奥様に止められていた。みんな前に座る人は、私をちらっと見ては知らないフリをしているようだった。
「おい!」
俯く私の前に一人の人が立った。
驚き顔を上げると、男性が一人立っていた。
年齢は不詳だが、睨んでいるようにも見える細めた目元は、どこか祖父の面影を感じる人だった。
「清音の子だな?」
母の名前が出たので動揺する。
すぐにはっとして、コクりと頷いた。
「何でここに居る?」
「えっ……」
「だから何で、ここに居るんだ?」
そんなこと言われても……と言葉に困る。
まさか私を追い出そうとしているのか。
十分考えられる話だが、好きだった祖父をあの世に送ることすら叶わないのか。
ちらっと隣の付き人だった人を見ても、神妙な顔をされるだけだった。
「こっちだろ?」
彼は私の腕を引っ張り、無理矢理立たせた。
そして前方──親族席の方へ引き摺っていく。
「ま、政彦さま……」
「うるさい」
彼は凄い血相で、彼を睨んだ。
辺りが騒然とする中、私は何列も続く親族席の一番前──康太郎おじさん一家 の隣に「ここだ」と座らされた。
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