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少しそわそわしながら時間が過ぎるのを待ち、予定の時間ちょうどに出ると、電車に乗って数十分ほど場所で降りた。
出口を抜けると、ごくごく普通の東京にある住宅地の真ん中に出る。マンションや三階建ての一軒家がひしめき合うように並ぶ中、区切られたように高い壁が並ぶ一角がある。そして進むと、ひときわ目立つ門構えのが見えてきた。木の扉に瓦屋根の重厚感のある門は、この家の歴史を感じさせる。
気は進まなかったけど、意を決してインターフォンを押した。
出た人に名前を告げると、すぐに案内の人がやってくる。若い男性で私が初めて見る人。恐らく新しい内弟子さんだろう。
応接間に通されると「しばらくお待ちください」と言ってお茶が出される。
私はお茶に口を付けながら、辺りをじっと眺めて昔を思い出していた。
壁のガラスで囲まれた飾り棚には、大事そうに三味線が飾られてある。
丁寧に台に置かれて、愛用していた撥も数枚。
古いもので歴史を感じさせるが、磨かれていてきちんと手入れされているのがわかる。
そしてその壁の上には肖像画が並んでいて──その最後は祖父の顔だ。
──この家に来るときはいつも緊張した。
母が生きていた頃は、半月に一度の日曜日。
私は最寄駅に来る迎えの人と共に、電車と新幹線を乗り継いでここまで来させられていた。
いつもここに通されて、しばらくすると祖父がやってくる。
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