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プロローグ
あの頃の私はキラキラ輝いていた。毎日が楽しかったし、大好きな人に『大好き』と言える喜びを噛み締めていた。
春。
「先生、好きなんだけど」
「はいはい。それより宿題はどうした?」
夏。
「先生のこと、大好きすぎて困ってるんだけど」
「はいはい、俺はお前のテストの点数が低すぎて困ってるよ」
秋。
「先生、いつになったら振り向いてくれる?」
「そうだなぁ、まずは高校をちゃんと卒業してくれ。学校始まって以来の留年だけは勘弁だぞ」
冬。
「先生、私卒業したよ。だから最後にちゃんと返事をちょうだい」
「お前は俺がいないとダメみたいだし、仕方ないから付き合ってやるか」
幸せだった。先生が大好きだったから、そばにいられるだけで良かったの。
だけどいつしか心は欲張りになっていく。
好きな気持ちだけで良かったはずが、彼からの気持ちが欲しくなる。
そばにいるだけで良かったはずが、彼に必要とされたいと思うようになった。
あの頃の真っ直ぐで純粋だった私はどこかに消えてしまったのだ。
一年目。
「ねぇ、私のこと好き?」
「当たり前だろ」
二年目。
「ねぇ、ちゃんと言って欲しい」
「そんなこと、言わなくてもわかるだろ」
三年目。
「ねぇ、私ってあなたの何?」
「恋人だろ?」
四年目。
「あなたは私にそばにいて欲しいって思う? わたしがいなきゃ生きていけないって思う?」
「いきなりどうしたんだよ。ちゃんとそばにいるじゃないか」
違うの--聞きたい言葉はそれじゃない。どうしてあなたはその言葉をくれないの?
私はどんどん欲張りになって、どんどん不安になって、あなたが好きなのに嫌いになりそうになる。
五年目。
「どうして私の気持ちをわかってくれないの……?」
「唯香?」
「もうダメ。限界。祥太郎さん、私たち別れよう」
嫌だと言って。お前が好きだって引き留めて。唯香だけなんだと言って欲しい--。
「わかった」
涙が溢れた。この人は最後まで私の気持ちをわかってくれなかった。
好きだったのは私だけ。いつまで経っても生徒と教師の距離感を越えることは出来なかったんだ。
どれだけの時間が過ぎても、私は子供のまま。彼と対等になることはなかった。
「三日ちょうだい。この部屋の荷物を整理するから」
「わかった」
私の本気だったんだよ……ドアの閉まる音と共に、体の力が抜け、大声で泣き崩れた。
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