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「うん。痛みが酷くなるようだったらまた来てね」
「はい」
頷いて、菜乃花は千影と一緒に保健室を出た。
「……本当にすみませんでした」
二人きりになった途端、彼は暗い顔でそう言った。
一階の廊下には誰もいない。
教室がある二階から談笑の声が聞こえるが、人が下りてくる気配はなかった。
「いいって言ってるでしょ? それより、大事な用事があったんじゃないの? 階段を駆け下りなきゃいけないほど急いでたもんね。行かなくて大丈夫?」
「大丈夫。そもそも俺が急いでたのは……」
そこで急に彼は口ごもり、目を逸らした。
さながら、親に怒られるのを厭って黙秘を貫こうとする子供のように。
「……急いでたのは?」
どうにも気になって、菜乃花は追及した。
「……限定カレーパンを手に入れようと思って……」
蚊の鳴くような声で、彼は白状した。
「ああ」
右手は動かせないので、内心でぽんと手を打つ。
毎週水曜日、五桜学園の購買では二十個限定の特製カレーパンが販売される。
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