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「うん。二週間もあれば治ると思うし、そんなに気に病むことはないさ。これに懲りたら階段を駆け下りるのは止めるんだね」
足を組んで椅子に座り、少し離れた場所から苦笑交じりに菜乃花たちを見下ろしている梶浦は校医だ。
良家の子女が集まる五桜学園には常駐の医師がいる。
「重々承知してます……」
千影はゆっくりと顔を上げて、正座の姿勢に戻り、スカートから伸びる菜乃花の足を申し訳なさそうに見た。
菜乃花の手足にはいくつか痣ができていて、右手首は手の甲まで包帯に覆われている。
「もういいから。天坂くんの反省の気持ちは十分に伝わったから、立って。ほら」
千影の腕を左手で掴み、強引に立たせる。
こうでもしないと彼はてこでも動きそうにない。
それに、この程度の接触で恥ずかしがるのもいまさらだ。
千影は俗にいうお姫様抱っこで菜乃花を保健室まで運んでくれたのだから。
あのときは大音量で鳴り響く心臓の音が彼に聞こえてはいないかと冷や冷やした。
「長居したら迷惑になるし、行こう? 先生、お世話になりました。ありがとうございました」
菜乃花は梶浦に向かって頭を下げた。
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