黎明

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ここに、1つのベンチがある。 赤くて立派なそのベンチに腰掛けて、視線を上げて空を仰げば 美しい桜が花開き、風の中に春の香りが感じられ 暖かなお日様の光が降りそそぐ。 人々は思い思いに桜を楽しみ 笑顔でその美しい花を見上げてみては、嬉しそうにはしゃいでいる。 そこには悲しみにくれる人、飢えに苦しむ人は1人も見当たらない。 私は1人、今年もここで赤いベンチに座って桜の花を見上げている。 春の優しい風に乗って、 「行ってきます」 あなたの声が聞こえた気がして辺りを見回すけれど、そこには寂しそうに転がっている空き缶しか見当たらない。 私はあの日から、時計の針をすすめることが出来ないでいる。
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