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プロローグ
ある日、俺の働く病院で、上司である吉井という“BBA”が朝から愚痴り出した。
「困るのよねー、『働き方改革』とか言われもねー」
彼女は俺の働く病院で院内清掃を担当するBPNという派遣会社の現場社員である。
俺は、この小肥りの中年女性の部下であり、もういこの会社で“通年”で5年以上働いている。
朝礼の際、吉井はたまに最近メディアなどで話題になっている出来事を話す。
俺にとっては退屈な時間だが、興味ありげな目線を彼女に送り、耐えている。
この日は最近、テレビなどで話されている『働き方改革』の話だった。
「働き方改革って言ってもねー、ちゃんと“本業”をしっかりやってくれないとねー。“それで”他の仕事してよね。…それを政治家が言ってさ、こまっちゃうのよね」
吉井の言葉に反応して、他の従業員(派遣)の女性スタッフや、俺と同じ男性スタッフの原さんが薄く笑う。明らかに愛想笑いだ。
吉井はその反応に満足そうだった。
「私が若い頃より変わっちゃったわよねー。…いやーね、本当に…」
そう言いながら、吉井は俺をチラっと見た。
(ん?)
俺に言っているのか。
俺とこの中年社員の仲は、あまりよくない。何度か揉めている。
俺もこのBBAが好きではないが、吉井の方も俺などと関わりたくないはずだ。
「分かってないのよね、お偉いさんは。現場がどんだけ大変か…。とにかく、真面目に働いてくれたる人が欲しいのよ。他に働くとかじゃなくて…」
他の女性スタッフらが「そうねー」と同調した。そして、また吉井は俺を一瞬見た。
何が言いたい。
俺は、この病院にもう5年積めている。BPNでは3年が過ぎている。
確かにここの加瀬木だけでは足りないので、今は積志駅の近くのスーパーで品出しの仕事をしているが…。
それが気に入らないのか。
何故だ。ここの給料が低いから他で稼いでいるだけだ。今までも大学の研究室、コンビニ、創庫、工場などで“副業”してきた。
それが何だ。文句あるのか?
俺は、吉井を睨んだ。
吉井は、俺から目線を反らした。
もしかしたら、去年の“ストレス・チェック”の一件か。
それなら俺も頭に来ていた。
『無記名』のアンケートが、提出後、何故か俺が吉井に呼ばれ、叱責され、脅された。
『ストレス・チェックが一番のストレス』というおかしな事になった。
俺は、今もあの事に納得していない。
出来ることなら、怒鳴り散らして吉井に“STF”でもして、鼻の骨を曲げてやりたいが、我慢だ。
俺は、朝から、『早くここを辞めよう』と改めて思った。
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