毒の名

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「では、ここでおやつにしましょう。」 「そうだな。」 彼女に連れられ、僕は近所の公園の中のベンチに座った。天気が良かったので、その日差しで暖かくなっていた。パック弁当から桜餅とペットボトルのお茶を取り出し、僕たちは花見を楽しむことにした。 「いただきます」 僕は、桜餅をパクリと丸ごと1口で食べてしまった。大きな口を開けているのを見られるのは、ちょっと恥ずかしいものがある。 「あれ、桜の葉っぱには毒が含まれているのよ、ご存知ないのかしら。」 え、本当かよ。毒って…… 「言うのが遅いよ……どうしてくれるんですか」「どうって……死ぬしかないわね」 「そんな……」 彼女は僕の反応が面白かったのか、くすくすと笑っていた。僕はその笑顔にまた見惚れてしまう。 「冗談よ、嘘に決まってるじゃない」 「なんだ……よかった。」 僕はほっと胸を撫で下ろした。と同時に急に睡魔が襲ってきた。 「そうそう桜の葉には毒があるのは本当よ、ただ人間には殆ど無害なの。桜の葉の毒は他の植物から栄養素を取られないように、独占するためなの。ほら、桜の周りには雑草がないでしょ。これはその毒性によるものらしいわよ。 他を蹴落としてでも、自分のためにその栄養を独り占めにするというのは、恋心というか乙女心にも通じるものはあると思うわ。残酷だけどどこか優美。えぇと……なんと言ったかしら。その毒の名前は…… 確か……」 淡々と話す彼女の声が、だんだん遠くに聞こえてくる。桜の花びらが舞い落ちるように、僕の背中はベンチの方へと倒れていった。
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