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3月某日のことである。
「お花見をしましょう。」
僕の彼女、熊野凜(くまのりん)はそう言った。
晩御飯の最中にそう言ったのだ。
唐突であった。いや、お花見自体が唐突な訳ではない。天気予報で開花宣言が発表される時期であったからおかしくはないのだ。
そうではなく、彼女がその発言をしたこと、それが唐突であった。そういう行事をわざわざ提案することがないからだ。いつもなら、こんな行事はくだらないと一蹴するはずなのだ。それゆえ沈黙してしまった。
「嫌なの?」
圧のある言い方だった。
「嫌じゃないです。行きましょう、行かせてください……」
「なんで敬語なの?」
「なんとなくです……」
完全に彼女の尻に敷かれている男性の姿がそこにはあった。恥ずかしい限りだ。
「それはそうと、いつか言ってたあの子まだ出勤してないの?」
「あぁ。流石に数週間も欠勤が続くとな……怖いというか、不気味だな。無断欠勤するような子ではないから。」
その子と仲が結構良かった。仕事の都合上、会社の人とは結構コミュニケーションをとることが多い職場だったが、その中で話しやすかったのがその子だった。人懐っい子で、異性の中では凜の次に話があう子だった。
「そう……」
自分が聞きだしたのに無関心。
彼女らしい。
結局自分に関係ないことは興味がない。
「ごちそうさま」
そんなことを考えながら、僕は手を合わせた。
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