花より推し

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「…間違いないよ。アレだ」 「浅草ってどの電車さ乗ればいいの」 「浅草線ってあっけど」 私たちは案内板を追いかけるように地下鉄を乗り継いだ。都営浅草線を終点で降りて少し歩くと、雷門の先に隅田川が見えた。 例の金色の塊が、光の中に鎮座している。 子どもの頃に一緒に笑った春くんの顔が思い浮かんだ。すぐ後ろには、そびえ立つスカイツリーも見えた。 「右に曲がってみっか」 「うん」 川に沿って広い遊歩道が伸びている。ドラマや映画でこんな場所をよく見かける気がする。 人通りは少ないけど天気もよくて、ぶらぶらするにはちょうどいい日和だった。 水上バスの乗り場を背にして川沿いを進んだ。 少し先に二人で並んで歩く男の子の背中が見えた。 並ぶ桜の枝先から花びらがこぼれ落ちる。私の脳内で美化されていることを除いても、目に焼き付けておきたいくらい絵に描いたような再会だった。 「春くん!」 私が呼びかけると、片方の男の子が振り返った。 間違いない。 「恵那ちゃん」 春くんが笑ってくれた。 私はほっとして気が抜けてしまった。 「よがったよぉ。いなぐなったって聞いで、びっくりしたんだがら」 「よぐわがったな」 「お兄ちゃん! 心配させねでよ」 「おお、わりわり」 久しぶりに春くんの訛りを聞いて、何だか嬉しくなった。私は春くんにこっそり尋ねた。 「呼んだでしょ。ここにいっからって」 「バレたが」 「あれは忘れらんによね」 春くんはいつもの笑顔を見せた。 「こっちは瑞季。ルームメイトだ」 「俺、北海道生まれだから。春と話してると落ち着くんだ」 「あっちはこだに濁んねえべよ」 「したっけ、一番通じるの、春だも」 よかった 仲いい友達がいて 近くの自販機で瑞季くんがミルクティーを買ってきてくれた。今日は気温も高いから、冷たいペットボトルが掌に気持ちよかった。 「ありがとう」 「わりがったね。せっかく来てくっちゃのに、メンタル不調でさ」 春くんが自嘲気味に切り出した。 「…何かあったの」 思わず尋ねると、春くんは困ったように笑った。 「何か、迷いっていうか。どうしていいかわがんねぐなって」 「ライバルいっぱいだもんね…」 「みんな(すげ)んだ。蹴落としてでもってバチバチでさ。ぎすぎすしてんのが嫌になって…」 ああ やっぱり 春くんは優しすぎる… 「したっけ、春もオファーあったろ」 「え? ああ…」 瑞季くんに言われて、春くんはバツが悪そうな顔になった。 「壮真先輩が愚痴ってた。仕事選ぶなんて贅沢だって」 春くんはため息をついた。
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