嘘つき

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嘘つき

結局、亘くんは来なかった…眠ろうとしたけど眠れなくて亘くんを待ってしまった… 「おはようございます。具合はどうですか?本日担当します河合です。よろしくお願いします」 「…は…い」 「後ほどまたきますね」 「……」 この声、この前廊下で話してた人の声に似てる。この人も私の事嫌いなんだっけ…ぼーっとしてるうちにご飯が運ばれてきた。食欲は…ない。食べたくない。 トントントン 「詩織おはよう。昨日はごめんな。急にオペが入ってかなり長引いちゃって…終わってからも患者さんの対応してて…顔見に来たかったのに、来るのが遅くなっちゃったな。詩織をオペした橘は優秀だからよかったよ。午後にCT取って大丈夫ならチューブ取れるから、ちゃんと飯は食べろよ。詩織…どうした?」 「………」 「あっごめん。疲れてるのに俺、話しすぎたか?ゆっくりしてていいから。何か必要なものとかあるか?」 「…亘くん、忙しいから来なくていいよ。好きなことすればいいから…」 「はぁ?何言ってんの?」 「眠いからまだ寝てていい?」 「詩織…?」 私は布団を頭から被った。亘くんの顔を見たくなかった…亘くんは何も言わずに部屋を出ていった。 どうして嘘つくの?本当のこと言えないの?なんで?どうして?亘くんに好きって言われて嬉しかったのに…一緒にいてくれるって安心したのに…やっぱり亘くんの好きは妹としての好きなのかもしれない。これからは一緒に住めないかもしれない。心の中は複雑で…涙が後から後から溢れてきた… 「川原さん、ご飯食べられましたか?って全然食べてないじゃない。気に入らなかったんですか?」 「いえっ…食欲なくて…すみません」 「あのねー食べないと退院できないでしょ?また亘先生に心配させたいの?今日だって、あなたの事が心配だからって朝早く来たんですよ。本当は…まぁいいわ。お昼はちゃんと食べてくださいね。お腹空いたからって売店で何か食べることはしないでください」 食欲は全くなかったから、そんなことしないのに…なんでそんな嫌味なこと言われないといけないの?不安定な気持ちのまま過ごした。 お昼になり食欲はなかったが、また言われるのが嫌で無理やり食べた。そのせいか吐いてしまった。でも知られたくなかった… 「あのね川原さん食べれるなら最初からちゃんと食べてくださいね。あなたも看護師ならわかるでしょ?それとも構ってちゃんなの?」 「…っすみませんでした」 「わかったならもういいわ」 昼過ぎに橘先生がCTを撮った画像を確認してくれてチューブを取ってくれた。取ったばかりだからなるべく安静にしてと言われたが…なんだか落ち着かなくて廊下を歩いていたら亘くんの話声がして耳を澄ました。 「だから…これ以上は無理なんだって」 「お願い。もう一度でいいから」 「俺だって暇じゃない。昨日だってオペが終わったら詩織の所に行くはずだったのに」 「詩織さんには私から謝るわ」 「そんな事したらややこしくなるじゃないか…」 「だって好きなの。凄いよかったの。最後にするから…もう一度だけお願い…」 「わかった。最後だぞ」 「ありがとう。本当に嬉しい」 あぁ…そうか泉先生は亘くんの事が好きなんだ。看護師さん達も言っていたお似合いだって。もう一度…きっと2人で…もしかしたら身体の関係?  「ねぇ…川原さん…今の話聞いてた?泉先生と付き合ってると思ったけど…もう一度だけって…身体の関係もあったのかしら?亘先生だって最後って…」  私は河合さんの言葉を最後まで聞くことなく走った。走って、走って…どこに行けばいいのかわからなかった。 「はぁ…はぁ…はぁ」 息が上がり疲れた所で足を止めた。 「ここ…」 そこは病院の裏にある公園だった。走りすぎて足がガクガクして息も上がっていてベンチに座った。 亘くんが朝言ってたことは嘘だったんだ…オペが長引いたのも、患者さんの対応も、私の顔見たかったのも…全部、全部、嘘で、本当は泉先生と一緒にいたんじゃん。なんで嘘言うの?どうして本当の事、言ってくれないの?どうして?どうしてなの? もう…疲れちゃったよ。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、お願いだから迎えに来て…私もみんなと一緒にいたいの。 神さまお願いです。私をみんなの所に連れてって…ください…
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