あたしはひろいん

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 仕事を終えると、マイラさんの元へ直帰する。 「すみません、帰りました!」 「おかえり。これはクロエちゃんの分ね」 「そんな。申し訳ないです」 「いいんだ、どうせ廃棄しちまうやつだから」  マイラさんにパンをもらうと、ルルメリアを探した。マイラさんが焼いたパンをおいしそうに頬張っていた。 「おいしい!」  可愛らしい様子に癒されながら、マイラさんに改めてお礼を言った。 「すみません、パンまでごちそうになってしまって。ルル、何か粗相をしませんでしたか?」 「いつも通り元気だったよ。……あっ。ただね、何だかずっと同じことを嬉しそうに言うのが気になってね」 「同じこと?」 「あたしはひろいんなんだって。私にはひろいんが何だかわからないけど、最近の言葉か何かかい?」  ひろいん。それは、最近になってルルメリアが言い出した言葉だった。私もよくわからなかったため、濁すことしかできなかった。 「……大した意味はないと思います」 「そうかい!」  それでも納得してくれるのがマイラさんだった。食べ終わったルルメリアと帰路に着いた。  ひろいんは主人公。それならあまり気にすることではないだろう。自慢したがるのも、きっと年頃の子どもだから。そうは思ったものの、念のためもう一度聞いてみることにした。 「ルル、お母さんにひろいんって何か教えてくれる?」 「ひろいんはしゅじんこーなの!」 「主人公なのよね……」  同じ言葉が返ってきたことに頭を悩ませる。  この子特有の言葉なのだろうかと考え始めると、新しい言葉が出現した。 「ひろいんといえば、ぎゃくはーれむ!」 「……ぎゃく、はーれむ?」  何だ、はーれむというのは。  初めて聞く言葉に、疑問が生まれる。   逆というのは反対という意味だとして。はーれむという単語は聞きなれないものだった  発した張本人は、ぬいぐるみで遊びながら、楽しそうにしていた。 「ルル、逆はーれむって何かな」 「逆はーれむ? はーれむはね、たくさんのいけめんをはべらせるの!!」  待て待て待て、どこで覚えたそんな言葉。  イケメンまではわかる。カッコいい人と結婚したいの、なら理解できる。しかし侍らせるとなれば、話は変わって来る。しかも、たくさんとなれば大問題だ。  子どもの戯言と聞き逃すには、随分とはっきりした表現に聞こえてしまった。  それに、この子は何故か本気でそう言っているように思えるのだ。 「……ルル、どこで覚えたのそんな言葉」 「あたし、てんせいしゃだもん。ぜんせのきおくがあるからわかるのよ!」  てんせいしゃ、はさておき。前世の記憶?   理解が追い付かないが一つ言えるのは、ルルはドヤ顔をしている場合ではないということだけだった。
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