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きらきらしている母
演奏会に行くと決めてから、私は夜にこっそりと練習を始めた。
ルルメリアを寝かせると、一人鏡の前で立ち姿を確認する。
背筋はこれ以上ないほど真っ直ぐに伸ばして、顎を引く。目線も一点を見つめて決して動かさない。
そして、最後に貴族令嬢としての雰囲気をできる限りだす。
侍女ではなく、オルコット子爵令嬢に見えるように。指先、爪先まで集中しながら歩く練習やカーテシーの練習を繰り返し行った。
「……よし」
寝る前に必ず一時間はこなした。他にも食事の準備をする時や、出勤する時などのありとあらゆる場面で、必ず美しい姿勢を保つことにした。
「……?」
ルルメリアは最初、私に対する違和感を何となく感じていたようだが、その答えがわからないようで不思議そうに見つめていた。
私は聞かれない以上は自分から話すのは恥ずかしかったので、ルルメリアにバレてないフリをしていた。
すると翌日、ルルメリアが朝食を準備している私の隣に立った。
「おはよう、ルル」
「おはよー、おかーさん!」
てっきり挨拶をして椅子に座ると思っていたので、まさか隣に立ち続けられるとは思わなかった。
何をしているんだろうと気になって観察してみれば、どこか得意気に背筋を伸ばしていた。
「……えぇと、ルル? 何してるの」
「おかーさんのまねっこ!」
「私の?」
ビシッと聞こえてきそうなくらい、勢いよく背筋を伸ばしているルルメリア。背中に力を入れているからなのか、手首が九十度で曲がっていて、力んでいるのがわかった。
「うん! おかーさんさいきんかっこいいから、まねっこ!」
「か、カッコいい」
まさかルルメリアにそんなことを言われるとは思いもしなかったので、練習した結果が出ているようで嬉しくなった。
「ありがとう、ルル。でもね、私の真似をするならただ背筋を伸ばすだけじゃ駄目よ」
「そーなの!?」
「うん」
これは良い機会だと思って、私は淑女としての立ち方を教えることにした。
「手首は曲げなくて良いの。それと、手は前で重ねるかな。尚且つ顎は引いて……うん! よくできてるよ」
「ほんとー!?」
ルルメリアは、一つ一つ手直ししていけばそれなりに様になった。しかし、褒め言葉に反応してこちらを向いた瞬間、また元に戻ってしまった。
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