あたしはひろいん

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あたしはひろいん

「おかーさん! あたしひろいんなの!!」  何を言っているんだろうこの義娘は。ドヤ顔で何かを自慢しているのはわかるが、その内容は少しもわからなかった。 「ルル……ひろいんってなに?」 「ひろいんはね、しゅじんこうなのよ!!」  勝ち誇った笑みを向けられるものの、未だに理解が追い付かず考え込む。  主人公、ね。まぁそりゃ、人生は誰しも自分が主人公だからな。  その時の私は、特段気にすることなく年頃の女の子だなと思うことにした。  私はクロエ・オルコット。没落貴族の娘。最後の当主だった兄が、夜会からの帰り道馬車が崖から落ちてこの世を去った。馬車には義姉も乗っており、娘のルルメリアだけが取り残される形となってしまった。  引き取れる親族は妹の私しかおらず、私は二十歳という若さで母親になることになったのだ。姪だった四歳のルルメリアを義娘にしてからというもの、最低限の生活がこなせるように働き続けた。  没落したので、貴族程優雅な生活は送ることはできなかった。領地も立派な屋敷もないオルコット家。それは名ばかりの貴族で、暮らしは平民と変わらないものだった。  質素な暮らしは幼い頃から送っていたので、私は人生設計を詳細に考えた。幸いにも頭は良い方だったので、学園の教師になれるように勉学に励んだ結果、現在は教師として働けている。 「ルル、今日もマイラさんの言うことをしっかり聞くのよ」 「はーい!」  ミルクティー色の髪をツインテールにしたルルメリアが、勢いよく手を挙げた。髪色だけ見れば、私の方が少しだけくらい色の髪なミルクティー色の髪なのでどうにか親子に見える。  ただ、こぼれそうなほど大きなピンク色の瞳に愛くるしい顔立ちのルルメリアに対して、私の水色の目は切れ長で冷たい印象を受けるので顔はあまり似ていない。  長い髪を後ろでまとめると、前髪をさっと右側によせる。自分の支度を終えると、最後にルルメリアの様子を確認した。大丈夫、いつもと変わらず元気そうだ。  出勤する時は、いつも隣の家でパン屋を営むマイラさんにお願いしている。私が一人で育てることを知ると「何でも言うんだよ!」と言ってくれた、子育ての心強い味方だ。  義母として煙たがられる心配はあったが、ルルメリアは気付けば「おかーさん」と呼ぶようになってくれた。だがこれは、私が好かれているのではなく、恐らく本当の母の記憶がないのだと思う。いつかは事故について話そうと思うが、幼い子には酷な話だ。 「すみません、お願いします」 「いいのよ、気を付けて行っておいで」 「はい、行ってきます」  正直、私が教師として職につけたのは没落でも貴族の血が入っていたことが大きい。オルコット子爵家は、二代前の当主が商売で失敗した負債を返しきれずに潰れた。しかし、もとは歴史ある由緒ある家だったのだとか。血筋に興味を持ったことはなかったが、その時ばかりはさすがに感謝した。 「今日も頑張ろう」  私は教師として週二日学園で教えることになっている。普通に考えれば、子ども一人養うのにお金が足りないが、兄が残してくれた遺産のおかげでどうにか賄えている。負の遺産は父と兄がどうにかなくしてくれたので、私が苦しむことはなかった。
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