32人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
失望
彼女いない歴=年齢。
24歳にしてその肩書きをもつ俺は、まっとうな定職にもつけないフリーターだ。
人一倍繊細な性格のせいで他人の機嫌に左右される上に仕事が続かず離れてしまう。
ただでさえプレッシャーに弱いというのに、正社員なんてなれない。
男は稼ぎがなければモテずに家庭を持てないのは当然なんだろうが、こんな性格をしている時点で男として御役御免だ。
「相羽くんーっ、あとでこの書類を長谷部さんに渡しといてくれる?」
「はい、渡しときます」
「ありがとう。それじゃあお先」
先輩の畑さんに書類の束を渡され事務所に向かう。
最近始めた書店販売員の仕事は思っていたよりも重労働だ。
先輩は毎日発注のためにFAX用紙を眺め、届いた書籍の検品で大量のダンボールを運ぶ。
何人か腰を痛めてヘルニアになったと聞いた。
「長谷部さん、これ.....畑さんからです」
「.....」
事務所でパソコンと向き合う長谷部さんは、俺の声にイラ立ちの表情を浮かべる。
これだ。
俺はこれに弱い。
「いま話しかけるなよ.....集中が切れるだろうが」
「す、すみません」
ああ、もういやだ。
こんな性格。
いっそ消えてしまえたら楽なのに。
心がモヤモヤして痛い。
ただ声をかけただけなのに、そんな怒らなくても。
俺は俺が嫌いだ。
感情がなくなればいいのにと何度思ったかわからない。
厄介なこの感情がなくなれば、人の機嫌に左右されることもなくなる気がしている。
毎日、家に帰るとドッと疲れがやってくる。
仕事を終えてひとり暮らしのマンションに帰った俺は、真っ先にベッドへ飛びこんだ。
「あ゙ぁ.....クソ、死ねよ.....」
消え入る声でつぶやくと目尻に微かな涙が浮かんだ。
俺なんて生きていたって、世の中のなんの役にも立たないじゃないか。
なんで生きてるんだよ。
彼女だって、いないのに。
気がつくと俺は眠っていた。
目が覚めたのは20時をすぎた頃で、インターホンが鳴ったのがきっかけだ。
「ん.....誰」
眠気と軽い頭痛に少しイラ立ちながら玄関に向かう。
ドアを開けてみれば、そこには見慣れない男前が紙袋を手に立っていた。
「.....はい?」
「.....」
「あの、」
「ああ、夜分にすみません。最近、隣に引っ越してきたのでごあいさつを」
「え」
この令和の時代にもいるのか、そんな律儀なやつ。
身長は180近そうでスタイルがいい。
切れ長の目にスっと通った鼻筋、ブラウンベージュの髪。
年齢は俺とさほど変わらなそうだ。
「高原です。これ、京都のお土産なのでぜひ」
「あ、ありがとう.....ございます。律儀、なんですね。お土産なんて。俺は相羽、です」
「そうですか? これが当たり前だと思って育ったので」
「こんな紳士的なあいさつ、やったことないです.....常識ない人間なので、すいません.....」
自滅して落ち込む俺に、高原さんは顔色ひとつ変えずに「落ち込まないでください」と言った。
「俺がそう教えられて育っただけです。世の中の常識とは限らないですよ」
「.....俺とそんな歳変わらなそうなのに、考え方がすごく大人ですね」
自分が惨めになるくらい大人だ。
「22ですよ。相羽さん、同い年じゃないですか?」
「いや、24です」
「年上だったんですね、大学生だと思ってました」
「高原さんこそ、同い年だと思いました.....」
「敬語なくて大丈夫です」
「え、あ、うん.....ありがとう?」
イケメンに緊張しているコミュ障な俺を見下ろし、高原くんはやさしく微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!