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「不思議じゃろ?世の中なんかワシらにゃデカすぎて、この桜の花びらよりも情けない。情けないから酒を飲んで酔うしかないのよ」
「変な理屈ですね…」
「理屈なんてクソくらえじゃ。そうじゃろ?浮浪者」
「私ね。一応一流上場企業の営業マンだったんですよ。大学も結構名が知られてるとこ出てて、英語だって不自由しなかったけど。何だかちょっとしたことで、うまくいかなくなっちゃってさ。今考えるとね、どってことなかったかもって思うけど。沼にハマっちゃうと自分じゃ抜けられないのね。これがさ、もう気がついたらここでこうしてるわけよ」
「辛くないんすか?」
「辛いよぉ、そりゃさ。ひとりだもん。蔑まれるしね。寒いし、腹は減るし。でもさ、一番辛いのは居てもだんだん空気みたいになっちゃってさ。生きてるか死んでんのかわかんなくなっちゃうのよ」
「よく死にませんね。あ、すんません」
「死にたいって思ったよ。いや…今も思ってるかな。だけどさ、何か死ぬのも面倒になっちゃって、何にも考えなくなったらさ。したい事わかるようになったのよ」
「したい事?」
「たいした事じゃないよ。水飲みたいなぁとか、食いたいとかさ。ちょっとでもあったかいときなんか、もうすっごく幸せに寝れんの。こういうのって、何だろね。旦那がいうように、理屈じゃないんだよね」
『こういう人が、
親父のいう脱落者なんだろうな』
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