アネモネ

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俺は魔王だ。 母親は人間に、前勇者に殺された。皆魔物と言うだけで俺たちに敵意を向けて、魔物は俺の様に人間に変わる術がないから溶け込む事ができず戦う事を余儀なくされる。 「魔王様…、また勇者が…」 その言葉に歯軋りをする。またか、またあいつか。 これ以上被害が出たら俺たちだって建て直すことが難しい。今のうちに実力を測って、対策を練っておかないと本当にやられてしまう。魔族も、幹部も、俺も。滅ぼされる。 「もういい、俺が行く。幹部の奴らには偵察と伝えておいてくれ。隙があれば殺す。」 正面から言ったって消耗してない勇者のパーティーになんて勝つ事はできない。 俺は女へと姿を変えて角と尻尾を隠した。 ゴブリンに呼びかけて俺を勇者が通る道中で追いかける様に命令した。 作戦を決行すれば勇者はあっさり俺を助けた。女を2人、男を2人引き連れて勇者はその鎧に血をつけていた。ゴブリンは俺が展開した魔法陣で無事逃げれた様だ。 「大丈夫?怖かったよね」 「……はい、ありがとうございます…」 涙をそっと流して、差し出される手を取った。 国一美人な街娘と言った装いに男共から攻撃の意思なんて微塵も感じられなかった。 「君はどこから来たの?」 勇者は隣に座り、俺に飲み物を差し出して生い立ちを聞いて来る。何故だろうか、やはり勇者だからなのか?不快感が強い。 「アラクサンドリアから…、母が死んでしまって薬師の母から教わった術で薬草を集めて売ろうと考えていました。そしたらゴブリンに…」 そう言って肩を震わせれば勇者は俺の背中をさすった。 「君は薬の良し悪しがわかるの?」 神聖魔法は俺の体には毒である為、薬での治癒が必要だった。その為薬草や花については魔族一詳しいのだ。 「……はい」 「…それなら、僕達について来て薬を調合してよ」 勇者は笑顔を俺に向けて笑った。願ったり叶ったりではあるがそんな簡単に仲間にしてしまうのか。俺が美人だから?現金なやつだ。 「ほ、本当ですか…!…、で、ですが私にお金は…」 「仲間からお金取ったりしないよ」 「!」 なんでそんな清い事を言えるのに、魔物は殺せるんだ。 「ありがとう…ございます」 胸に手を当てて俺はそう言った。 「俺はマクス!君は?」 「…レイです」 これは本名だ。その日の夜、女の子達と湯汲みをした。人間の女に興味はないが、発育が良いな。俺より良いわけじゃないけれど… 「ねえレイ!」 考え事をしていて少し反応に遅れた。 「なんでしょうか、マリンさん」 「……っ、マクスが好きなのは私だからね!!」 さすがと言った所か。勇者が好きな様だ。やはり旅には囲いと言うものが付きものだしな。 言葉と共にどっ、と突き飛ばされて俺は声をあげて尻もちをついた。 「きゃあっ」 その声に反応したのかマクスがこちらへ飛び出して来た。そんなに大きな声を出したつもりはなかったのだが。 「どうした!?」 目があって、裸の俺は陰部を隠して顔を赤らめた。淑女とはこう言うものだろ?母を見ていたからよくわかる。 「ちょっと有り得ないんですけど!どっか行って!!」 マリンがそう言ってマクスに石鹸を投げつけた。マクスは謝りながら顔を真っ赤にして出て行った。 「ほんと有り得ない!…ほら、立って」 そう言って俺の手を引くマリン。人間と言うのはみんなこんなものなのだろうか。 「……、ありがとうございます」 「…別に」 俺がお礼を言う意味も俺自身わからなかったがなんだって良い。感じ悪い、と思いながら俺は立ち上がって自身の体についた泡を流した。
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