一歩前進

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一歩前進

(夢を見ているの?ビールを一気に飲みすぎた?)  私はかれこれ30分ほどスマホを握りしめて固まっていた。  何度確認してもDMにはsamからメッセージが届いていると表示される。すぐにでも確認したい気持ちと、現実を受け止めきれない気持ちがせめぎ合ってなかなかDMを確認できないでいた。 (ええい!いつまでも悩んでいたって前に進めない!思い切って開いてみよう)  私はそう思うと思い切ってそのDMを開いてみた。 『いつも配信を見てくれてありがとう。普段だったらこんなDMを送ることはないんだけど、君はいつも俺の内面を見てくれて今日は大好きだって言ってくれたからどうしても我慢できなくて…君は覚えているかな?俺が駅で倒れた時必死に介抱してくれたこと。その時地面に落ちた君のスマホにnanaって書かれていて、俺の腹筋の画像が表示されていたから俺のリスナーさんだってすぐ気がついたよ。本当はもっと早くに打ち明けたかったけどなかなか勇気が出なくて、でも今日のリスナーさんのDMに触発されて、言わないで終わるより言って終わる方がいいって背中を押してもらったようで思い切ってDMしました。どうか一度俺と会ってもらえませんか?それで、もし、もしも俺のことが気に入ってくれたらお付き合いしてくれませんか』  それは夢のような内容だった。ガチ恋しているsamを介抱していたなんて…確かに駅で倒れた青年を助けたことはあった。確かびっくりするくらい整った顔立ちとガタイがいい男の人で、駅でうずくまっているのに皆素通りするので気になって声をかけてお水を買って持って行き、駅員さんを呼んであげたのだ。 (えええ!あの時の人がsamさんなの!?)  だとしたら私の心はときめきが止まらなかった。 『では、急ですが明日の土曜日の13時に渋谷で待ち合わせではいかがでしょうか?』  先延ばしにしようとすればできたけど、悶々と過ごすのは嫌だったから私は勇気を出してそう提案した。するとすぐにDMの返信が届く。 『わかりました。では俺は黒いハイネックにグレーのコートで向かいます。nanaさんのお顔ははっきり覚えているので、見つけたら声をかけますね。楽しみにしています』  そう言ってDMでのやり取りは終わった。私は胸がドキドキして浮き足だった状態で夕飯の片付けをして歯を磨いてから布団に潜り込んだが、なかなか寝付けなかった。ようやく寝つこうとしたところでスマホに良平から着信があったのだが、眠たくてそれを取ることができなかった。
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