【13】おかえり

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「結愛、どーした? ぼうっとして」  心配そうに覗き込む蒼汰の瞳に、魂の抜けたような自分の顔が映っていて、はっとした。 「あのね、蒼汰。落ち着いて聞いて。今ね……」  今、蒼汰は思い出していたんだよ?  興奮しながら口を開いて、そう言おうとして、蒼汰に目をやって……。私は動けなくなってしまった。  蒼汰が私を見ている。今ここにいる私だけに向かって、愛情を注いでくれている。 「ん、どうした? 何があった」  その透き通った瞳には、今の私しか映っていない。 「……あの、あのね」  言いながら、また言葉につまってしまった。  昔の蒼汰を忘れたわけじゃなかった。けれど、同じくらい大切なことに気をとられていたのだ。  過去も今も全部ひっくるめて未来に向かっていく蒼汰。その蒼汰が、目の前にいる。 「本当に久しぶりに、私のところに帰ってきてくれたんだなあって思って、びっくりしてたの。やっと戻ってきてくれたんだなって。それで、でも……」  そのあとは言葉にならなかった。 「あっ、また……。あんまり泣くと、たぬきになるから」  微笑みながら蒼汰は、「しょうがないやつ」そう言って私の濡れた頬にそっと指をのせた。  蒼汰が今、目の前にいて手を伸ばして触れてくれる。私はそれだけで、もう何もいらないんだってわかっていた。(了)
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