因縁

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静寂(せいじゃく)の中、(ひいらぎ)が刀を(さや)に収める。  「終わった、か…。」 昭太郎が一人(つぶや)く。  「全てが終わった。 久我家の因縁に、宗次郎は巻き込まれただけだった。」 (ひいらぎ)は目を伏せながら(つぶや)いた。  宗次郎は悩んでいたのだろう。 何者でもない己の事を。 やがて追い詰められ、心を病んでしまった。 その責任は、自分にもあると、キヨノは思った。  「ごめんなさい、宗次郎さん…。私がしっかりしていれば…。」  「悔やむな。宗次郎とてそれを望んではいない。決着はついた。 あとは私たちにやれることをやるのみだろう。」 (ひいらぎ)の言葉に、キヨノは(うなず)く。  「わかりました…。」 それからキヨノは昭太郎に目を向ける。 気づいた昭太郎が、キヨノに笑った。  「安心しろよ。今さらどうこうとかはしない。俺は当主の座を取り戻したかっただけだ。 それとも恨んでるか? 宗次郎を殺す事になった俺を。」 キヨノは横に首を振っていた。  「いいえ、昭太郎さんは悪くありません。 それに助けられて、感謝していますから。」  「そうか。…元気でやれよ。キヨノちゃんと、(ひいらぎ)も。」 昭太郎が素で笑いかけたように感じた。  「当然だ。二度と貴様には関わらないよう、遠くに行くつもりだ。」  「はっはっ、そりゃ頑張れよ。 困ったら呼ぶからよ。…って、冗談だ。 二度と会わねぇよ、たぶん。 流石(さすが)にここで解放しないと、最後まで嫌な男だろ。」  「そうしろ。大嫌いな片割れでも、最後くらいは印象よく終わりたいからな。」  「大嫌いのままでいいぜ。 気色悪いからよ。…じゃあな。」 昭太郎はひらひらと手を振ると、あっさりと使いの者を連れ、去っていってしまった。 最後まで昭太郎らしい行動だった。  「…(ひいらぎ)さん、宗次郎さんのお墓を作りたいのです。 この程度で(つぐな)いもなにも、出来ると言うわけでもないでしょうけど…。」  「私も手伝おう。 それくらいしか、私にはしてやれることがない。思えば、兄弟らしい事もなにもしてやれなかった。最期まで、この子には…」  そう(つぶや)いた(ひいらぎ)の横顔は酷く悲しげで、宗次郎を見つめ、髪を撫でた。  そうしてその日、争いが絶えなかった久我家の因縁に決着がついて、(ひいらぎ)とキヨノは遠い地に移った。
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