Chapter II

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あろうことか、俺は園児に嫉妬した。 あの笑顔を俺だけに向けさせたい。 けれど、俺は何もできない15才。彼女は幼稚園教諭という立派な社会人だ。容赦ない現実を突きつけられる。 俺は早水さんに彼女の事を調べてもらった。 日向菜々子、4月生まれの24才、出会ったあの日は中学2年の14才だった。11月生まれの俺とは学年でいえば9才年上。一緒にいた車椅子の女性は彼女の母親で、数ヶ月後に亡くなった。その後父親も亡くし、兄弟もなく、身寄りと言える人はいないようだった。 両親を早くに亡くし、たった一人、今までどんな思いで生きてきたのだろうか。 あの笑顔の奥にどれだけの孤独を抱えてきたのだろうか。 計り知れない不安に幾度となく襲われた事だろう。 そんな境遇でも、あの時と変わらぬ笑顔で今を生きている。 俺の胸は熱を帯びていた。彼女の事を想えば想うほど、熱くなる。  俺は、日向菜々子に恋をしている…… それから俺は彼女に相応しい男になるべく、今までやさられていた帝王学や与えられた課題に取り組む姿勢を変えた。 久我山の後継者として一日も早く認めてもらえるように、全てにおいて本腰を入れた。 次に彼女の前に現れた時、あの日の幼い俺ではなく、一人の男として、頼れる男として見てもらえるように。 そんな俺を嘲笑うかのように、神というやつは俺に地獄を与えた。 17才の誕生日、俺は偶然見てしまった。彼女が男と一緒に指輪を選んでいるところを… みぞおちに一発喰らったような痛みが俺を襲う。 そして幸せオーラ全開の彼女の表情が俺にとどめを刺した。
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