美男とティラノー

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 みのりんとは、うちのオヤジだ。「実だからみのりんて呼んでね」と初めて会ったときに言われた。軽い奴――それが第一印象で、覆されることなく早20年。  両親を事故で失ったのが6歳の時。親戚が俺の行き先についての話し合いを持ったのがみのりんの店。長々と揉めに揉める中、縁もゆかりもないみのりんが、「だったらオレが引き取る!」とテーブルをぶっ叩いた。  腹が弱くて食の細かった俺に、料理人のみのりんはあれこれ工夫して食わせてくれた。色合い。形。盛り方。味付け。  そんな博愛なみのりんに、恩義を持たないわけはない。――わけはないのだが。  最近感じずにはいられない。このオヤジ、遊び相手を探してたんじゃないか。つまり、からかって面白がれる相手が欲しかっただけじゃないか? 「どっちがいい?」  左右の拳をこちらに突き出し、俺が「こっち」と選ぶと「ホントにそれでいいのかあ?」と乗り出し、「じゃあそっち」と選び直すと両手を開けた。飛び出してきたのは片方はカエル、もう片方はイモリ。両方おもちゃだったけど、そのときのトラウマで俺は今も両生類が嫌いだ。
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