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いよいよ事態が穏やかでない方向に転びかけた時、呼び掛けに応じるようにして、その場に割り込む者があった。
「やめろ。嫌がっているだろう」
静かな声だった。決して荒らげるでない、凪の海を思わせるような沈着とした重低音。
一斉に視線が集う先、声の主もそれに相応しく泰然と構えていた。二メートルはあろうかという巨躯に、長い灰色の外套を纏った二十歳頃の青年。短い黒髪を後ろに撫でつけ、同色の瞳は切れ長で鋭く、精悍な面立ちをしている。
服の上からでも判る程の硬質な筋肉の存在感に半グレ達も思わず怖じるような気色を見せるが、そこはプライド商売。すぐさま負けじと虚勢を張ってみせた。
「あ? なんだ、てめぇ。この子の彼氏か何かか?」
「いや」
「おぉん!? 関係ねー奴が首突っ込むんじゃねーぞ、コラ!!」
「そ、そう、彼氏! 遅かったじゃないジョン! 待ってたんだからね!」
拘束の力が緩んだのを良いことに、女性は半グレの手から抜け出すと、黒髪の大男の元へ駆け寄った。恋人ということにした方が都合が良いと見たようで、その逞しい腕に縋り付くように腕を絡ませる。
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