2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「でその後、どう?コウタくん?」さや姉さんが聞く。
「どうって、もう泣くことはないですけど…」
「でも気にはなる」
「そりゃあ、気になります。音楽聴いたり動画見たりして、気を紛らわそうとするんですけど、何か虚しくなって、何もせずぼーっと見たいな」
事実何も手につかない。バイトしてる時は何かすることがあって、逆にその方がありがたい。
「連絡はけえへんの?」
「はい、一回こっちからラインしたんですけど、既読にもならなくて、忙しいんでしょうけど、なんかブロックされてるみたいで、はあ…」
ラインを読む時間もないほど忙しいのかしら、とまた余計なことを考えてしまう。
「ちょっと痩せた?」
「ええ、ああ、はい。何も食べる気がしなくて」測ってはないけど5キロぐらいは痩せたと思う。
「あかん、あかん、はるちゃん。気持ちはわかる、ほんまに。ウチにもそんな時があった。今では信じられへんかもしれんけど」
「昔はもっと細かったんや」急に大将がカウンターの向こうから、声をかけてくれる。
「うるさい、あんたにいわれたないわ、かっぱハゲ」姉さんがやり返す。
大将ははち巻きの上の薄くなった頭頂部を苦笑いでなでた。
「ははは、やめてくださいよ、もう、こんなところで夫婦漫才は」いいなあ、この二人は。
「なあ、はるちゃん、この際コウタくんのことはとりあえず置いといて、新しい第一歩ってやつを踏み出した方が、ええんとちゃうやろか」
「いやいや、そんなん全然無理ですよ。自分なんか誰にも相手にされない…」
「はるちゃんは器量もええし、気立もええ。お客さんの中にもはるちゃんのファンがおるやんか、酔っ払いのおっさんばっかりやけど」
そうかなあ。それにコウタくんのこと、気になるし、他の男子なんか。
「あんな、あのハゲ親父の弟弟子でかわいがってるやつがおるんやけどな、ちょっとそういうの奥手なやつでな、悪いやつやないんやけど、意固地になるところもあったりしてな、一回あってみてやってくれん?」
姉さんが私を見つめる。
「ちょっと変なやつやけど、悪いやつちゃうねん。身持ちは硬い、それは間違いない。ギャンブルとかもせえへんし。顔は、顔は、目がふたつに、はなが一つに…」
「もええって、あんたは黙っとき」姉さんがつっこむ。
「もうほんま、今のはるちゃん見てられへんねん。一回だけ、ほんまに一回だけ。気に入らんかったら、ウチらが断ったるから」
ええっっ、私、どうしたらいいの。
最初のコメントを投稿しよう!