はるちゃんに春を

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「でその後、どう?コウタくん?」さや姉さんが聞く。 「どうって、もう泣くことはないですけど…」 「でも気にはなる」 「そりゃあ、気になります。音楽聴いたり動画見たりして、気を紛らわそうとするんですけど、何か虚しくなって、何もせずぼーっと見たいな」  事実何も手につかない。バイトしてる時は何かすることがあって、逆にその方がありがたい。 「連絡はけえへんの?」 「はい、一回こっちからラインしたんですけど、既読にもならなくて、忙しいんでしょうけど、なんかブロックされてるみたいで、はあ…」  ラインを読む時間もないほど忙しいのかしら、とまた余計なことを考えてしまう。 「ちょっと痩せた?」 「ええ、ああ、はい。何も食べる気がしなくて」測ってはないけど5キロぐらいは痩せたと思う。 「あかん、あかん、はるちゃん。気持ちはわかる、ほんまに。ウチにもそんな時があった。今では信じられへんかもしれんけど」 「昔はもっと細かったんや」急に大将がカウンターの向こうから、声をかけてくれる。 「うるさい、あんたにいわれたないわ、かっぱハゲ」姉さんがやり返す。  大将ははち巻きの上の薄くなった頭頂部を苦笑いでなでた。 「ははは、やめてくださいよ、もう、こんなところで夫婦漫才は」いいなあ、この二人は。 「なあ、はるちゃん、この際コウタくんのことはとりあえず置いといて、新しい第一歩ってやつを踏み出した方が、ええんとちゃうやろか」 「いやいや、そんなん全然無理ですよ。自分なんか誰にも相手にされない…」 「はるちゃんは器量もええし、気立もええ。お客さんの中にもはるちゃんのファンがおるやんか、酔っ払いのおっさんばっかりやけど」  そうかなあ。それにコウタくんのこと、気になるし、他の男子なんか。 「あんな、あのハゲ親父の弟弟子でかわいがってるやつがおるんやけどな、ちょっとそういうの奥手なやつでな、悪いやつやないんやけど、意固地になるところもあったりしてな、一回あってみてやってくれん?」  姉さんが私を見つめる。 「ちょっと変なやつやけど、悪いやつちゃうねん。身持ちは硬い、それは間違いない。ギャンブルとかもせえへんし。顔は、顔は、目がふたつに、はなが一つに…」 「もええって、あんたは黙っとき」姉さんがつっこむ。 「もうほんま、今のはるちゃん見てられへんねん。一回だけ、ほんまに一回だけ。気に入らんかったら、ウチらが断ったるから」  ええっっ、私、どうしたらいいの。
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